中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

ニューロコミュニケーターの実用化に向けて

ニューロコミュニケーターを開発するにあたって、長谷川博士は試行錯誤を繰り返したという。
「もともとは脳波の専門家ではなかったので、開発を始める前に、病院で脳波や心電図などの検査業務を行う臨床検査技師さん対象の講習会に参加して、脳波計測の基礎的知識を身につけました。そしてまず、市販の脳波計を数種類購入したりレンタルして基本的な使い方や、アルファ波など観察が簡単な脳波の計測方法をマスターしました」

素人なりの視点で、既存の脳波計の長所短所を見極めながら脳波計と解析プログラムの試作を進めていったのだ。一方、実際に装置を使ってもらう予定の患者さんの状態についても知る必要がある。
「たとえば、ずっと病院に入院しているのか家庭で介護してもらっているのか、外出は可能か、口から食べ物を食べているかチューブを使っているかなどによって必要なメッセージのレパートリーや装置の構成が異なってきます。これまで動物を対象とした脳科学実験を行ってきた基礎研究者の私にとって、患者さんの生活や介護の現場は本当に知らないことばかりでした」

また、安全性に関して、特にてんかんの症状がある患者さんの場合、絵文字を高速にフラッシュさせるのは避けなければならないこと、潜在的な危険性を回避するために、刺激の強さやフラッシュの頻度、画面の色使いなどに関しても医師のアドバイスをもらった。このほか、感電や漏電の心配がないかどうかについても、医療用電子機器の専門家と相談して安全性の確保に努めた。

これからの大きな課題はやはり、より多くの人が気軽に利用できるような製品を提供することだという。
「今は、どうすればパソコンを除いて10万円以下で販売できるかその方法が分かった段階です。それぞれのパーツの価格を再検討していって、コストダウンを図らなければならない。脳波キャップも最初は海外のものでひとつ10万円もするものを使っていたのですが、水泳キャップで代用できることが分かって、スポーツ店で探したら数百円で手に入れることができました(笑)。システムで使っているパソコンの言語も安価に使えるものに書き換えるなど、まだ、2~3年くらいはかかるでしょうね」

こうした点をクリアして、多くの人が使えるようになった場合、ニューロコミュニケーターの技術は、多くの利用価値をもっているようだ。たとえば、脳波を利用して家庭での健康管理にも応用できるし、脳活動の強弱やパターンをリアルタイムで見えるようにすることによって、どれだけ自分がリラックスしているか、あるいは集中しているかを知り、それを自分でコントロールすることができるようになるという。そうなれば、勉強やスポーツなどに応用して、その効果を期待することもできる。このほか、消費者の脳活動を計測・解析して、消費者心理などを解明してマーケティングに活用する研究もいま以上に盛んになるだろう。

患者さんの生活や介護の現場にふれ、改良を重ねていったのだ。
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