中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

新しいライフスタイルやものづくりを提案

ところで、石田先生がネイチャー・テクノロジーの研究を始めたのはなぜなのだろう。
「これまでのものづくりは、石油などの化石燃料を大量に使い、大量生産、大量消費をおし進め、環境問題を引き起こしてきました。地球温暖化など、人類が深刻な危機に直面していることは、中高生のみなさんも理解できるのではないでしょうか。
自然は、完璧な循環をもっとも小さなエネルギーで駆動しています。生物は、石油や地下資源を使うことなく、遺伝子によってプログラムされた化学反応の組み合わせによってタンパク質をつくり、多様な構造や、さまざまな機能を生み出しています。いま求められていることは、自然や生物に学び、そのすごさの秘密をサイエンスの目で見直して、私たちが培ってきたテクノロジーを活かしながら、地球への負荷を最小限にするものづくりや新しいくらしの形を創り出していくことです。それが私の考える『ネイチャー・テクノロジー』なのです」
たとえば、アフリカのサバンナ地帯やオーストラリアにすむシロアリは、大きなものでは高さ6~7メートルの巣をつくる。外気温は昼間50℃、夜は0℃だが、こんな環境でも巣の中は30℃に制御されている。それを可能にしているのが土だ。土には、数ナノメートルの孔が無数に空いていて、これが温度や湿度の調整をするわけだ。
最近では部屋の温度や湿度を検知して自動運転する省エネ型のエアコンもあるが、電気を使って人為的に温度を下げることにかわりはない。そこで登場するのがネイチャー・テクノロジーだ。土に少量の石灰を混ぜて150度ほどで蒸すと、土の性質を維持したまま固めたタイルができあがる。これを床や壁材として利用すれば、エアコン使う必要がなくなり、年間のエネルギー消費量を20%程度下げることができるという。
「私の沖永良部島の『風の家』もこのタイルで床や壁をつくりました。風の通る廊下、無双格子でできた部屋の扉など、家全体に風が回るように設計してあり、風が心地よく吹きぬけていきます。ネイチャー・テクノロジーの活用で、快適に暮らしながら環境負荷を下げることができるのです」

写真:風の家

石田先生の沖永良部島の「風の家」。エアコンなしで快適に過ごせる

ネイチャー・テクノロジーは、21世紀の新しいライフスタイルを創り出すための技術だと石田先生は言う。それを象徴するのが、先生がいま興味を持っているのはトンボの形をしたマイクロ風力発電機だ。
トンボの翅の断面は凸凹していて、トンボが飛翔しているときには、この凸凹の部分に小さな空気の渦が発生し、かすかな風でも揚力が生じる。これにならって、ほんのわずかなそよ風でも回転をはじめ、しかも台風並みの強風下でも壊れることのない風力発電機の試作を重ねている。これまでの発想では、風力発電といえば、百メートルもの羽を持った巨大な風車を設置することだった。大型風車は時速200kmを超える高速で回転し、風切音や野鳥への影響など問題点も多かった。これでは、化石燃料が風力に置き換わっただけで、自分のライフスタイルを問い直すことにはならないだろう。それが、ネイチャー・テクノロジーでデザインされたくらしの一シーンで考えてみると・・・

写真:風力発電機

開発中のトンボにヒントを得た風力発電機。発電機は直径50cmで風速1mでも発電する

「たとえば、中高校生のきみがゲームをしたいと考えたとしましょう。いまは多くの場合、化石燃料などを使って発電所で起こした電気を使ってゲームをすることになります。でも、この小型のトンボ型発電機がみんなの家庭で使われるようになったらどうでしょうか。お母さんにゲームをやりたいといったとき、お母さんは『ゲームはしてもいいけれど、自分の使う電気はトンボ型発電機で創ってね』と言うでしょう」
こんなふうに、今までの延長線上でなく、これから求められるライフスタイルを描き、それを実現するためのテクノロジーを、自然をヒントにデザインし直していくことが大切だと石田先生は言う。

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