中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

工学と生物学の融合・連携が必要だ

石田先生の専門は、地質鉱物学をベースとした材料科学であり、生物学ではない。けれども、いま求められるのは工学的な視点で生物を理解し、その逆に生物学を工学に取り入れることだという。
「材料科学や機械工学などの工学と、生物学の融合が必要なのです。たとえば、アワビの殻をハンマーで叩いても割れないのはなぜなのか。アワビの殻が厚さ1マイクロメートル以下のたいへん薄い炭酸カルシウムの板を厚さ1ミリの中に1000枚以上積み重ね、それを有機材のやわらかな接着剤で張り合わせているからだという秘密をサイエンスの目で解き明かし、アワビの殻と同じものを、莫大なエネルギーと資源を使ってつくるのではなく、この積層構造をどうすればまねできるのかを発想できる工学センスが求められるんですね」
このためには異分野同士の連携や産学のネットワークも大切だ。
「私も生物学の専門家ではないので、生物学を専門とする先生、研究者と共同で研究を進めています。また、生物学と工学の間をとりもつコーディネーターの役割も重要になってくるでしょうね」
先生のホームページには、約200の「すごい自然」のデータベースが掲載されていると述べたが、こうした可能性に満ちた自然界の材料を、先生は「ネイチャー・テクノロジーの卵」と呼んでいる。しかし、実際に卵を見つけるのは至難の技だともいう。動物、植物、鉱物などの自然の営みの中から、工学的な視点で理論化することがたいへんな作業となるからだ。
このデータベースが、生物学者や医学、工学の研究者、エンジニアなどによって、さらに充実したものになれば、新しいものづくりの出会いの場となるだろう。中高生のきみも、柔らかな心で、自然の不思議の扉を叩いてみてほしい。これから追求してみたいテーマが見つかるかもしれない。「物理や数学が苦手だから生物に」「博物学がきらいだから機械工学に」「生物を履修しないで医学部に」という進路選びではもったいない。ぜひ、生物学にも工学にも好奇心をもち、楽しく学んでみてほしい。
「中高校生に言いたいのは、夢はあるよということ。環境問題が避けて通れないなら、ネガティブにならず、新しい文明を創るんだというくらいの意気込みで勉強してください。研究は恋と同じ。熱い思いで取り組んでいけば答えはきっと見つかります。私たちが提案するネイチャー・テクノロジーを、きみたちの手でさらに深化させていってほしいと思います」

◎10月26日から2011年2月6日まで「エコで粋?! 自然に学ぶネイチャー・テクノロジーとライフスタイル展」が東京・上野にある国立科学博物館で開催されます。

写真:蜂の巣のハニカム構造を紹介するツール

先生は子どもたちに向けたネイチャー・テクノロジーの環境教育やワークショップも積極的に行っている。これは蜂の巣のハニカム構造を紹介するツール

(2010年8月13日取材)

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