中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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第7回 生物をまねた技術で、21世紀のくらしをデザインしよう! ~東北大学大学院環境科学研究科・石田秀輝教授を訪ねて

カワセミのくちばしにヒントを得て設計された新幹線の先頭車両、サメの肌をまねてつくられた水の抵抗の少ない水着など、生物の構造やすぐれた機能からヒントを得て、ものづくりや医学などさまざまな分野で新しいテクノロジーを生み出そうという取り組みが注目を集めている。自然や生物の知恵を賢く活かして、21世紀の社会とくらしをデザインしていこうと呼びかけている東北大学大学院の石田秀輝教授を訪ねた。

レオナルド・ダ・ヴィンチも生物をヒントに

クモの糸はなぜあんなに丈夫なのか、ヤモリはなぜツルツルの壁を登れるのか、コウモリが暗闇を自由に飛び回れるのか・・・私たちの身の回りのさまざまな生物を観察すると、実に不思議な力が備わっていることに驚かされる。こうした生物に備わっている力をまねて、新しい技術を生みだすことを「バイオミメティクス」という。「バイオ」は生物や生命、「ミメティクス」は模倣という意味で、その2つの単語をあわせた言葉だ。
生物のまねをして技術を創りだすという発想は、古くから存在していたようだ。今から500年以上も前に、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いたヘリコプターも、トンボが空中に停止する様子をヒントにしたものだともいわれている。19世紀には木造船に穴をあけるフナクイムシに着想を得て、フランス人技術者ブルネルが崩落を防ぎながらトンネルを掘り進むシールド工法を考えだした話はあまりにも有名だ。
「バイオミメティクス」を積極的にものづくりに活かしていこうと提唱したのは、アメリカの神経生理学者オットー・シュミット博士である。博士は1930年代にイカの神経系をモデルにして、入力信号のノイズを除去する電気回路をつくりだした。
その後、1970年代以降、昆虫の飛翔をまねたロボットやコウモリの超音波を利用したレーダー、イルカのコミュニケーションにヒントを得たソナーなど、機械工学の分野をはじめ、近年は、生物学とナノテクノロジーが連携した新素材開発の分野で、多彩な成果が次々と登場してきた。たとえば、中南米に生息しているモルフォチョウの発色をまねた繊維が、ある繊維メーカーでつくられた。モルフォチョウは「生きた宝石」と呼ばれるほど美しい金属的な光沢のある翅を持っているが、これは色素によるものでなく、翅の鱗片の表面が規則正しい凹凸になっていて、見る角度や光の強さによって青く輝いて見えたり、光沢が消えて茶褐色に見えたりする。こうした色彩のことを構造色というが、開発された繊維も、屈折率が異なるポリエステルとナイロンからなる多層構造を持ち、見る角度によって赤・緑・青・黄と異なる色に見える。繊維そのものを染めたわけではないので、脱色も変色もしないという特性があり、インテリアや車のシートなどに活用されている。
これは、バイオミメティクスのほんの一例に過ぎない。生物をまねたテクノロジーの研究者は、新しい可能性を切り開こうと闘志満々、研究に取り組んでいる。

写真:モルフォチョウ

生きた宝石といわれるモルフォチョウ。美しい青色は、羽の燐粉表面の凹凸構造によるもの

写真:カワセミ

500系新幹線はカワセミのくちばしにヒントを得て設計された

写真:クモ

クモは同じ太さで比べると、スチールワイヤーと同じくらいの強さを持っていて、直径4cmのクモの糸があれば、ジャンボジェット機を持ち上げることができるといわれるほどだ

石田博士
石田秀輝(いしだ ひでき)東北大学大学院 環境科学研究科 教授

1953年岡山県生まれ。名古屋工業大学卒。78年伊奈製陶株式会社(現INAX)に入社。空間技術研究所基礎研究所所長、技術統括部空間デザイン研究所所長などを経て、取締役技術統括部長として同社の環境戦略とものづくりを統括。2004年より東北大学大学院環境科学研究科教授。工学博士。専門は地質・鉱物学をベースとした材料科学。自然のすごさを賢く活かすあたらしいものつくり「ネイチャー・テクノロジー」を提唱。また、環境戦略・政策を横断的に実践できる社会人の人材育成や、子どもたちの環境教育にも積極的に取り組んでいる。著書に『自然に学ぶ粋なテクノロジー』『地球が教える奇跡の技術』など。

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