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第8回 3Dインクジェットプリンターを使って、臓器ができる!? ~富山大学 工学部 生命工学科・中村真人教授を訪ねて

「インクジェットプリンターを使って、ヒトの血管や心臓、腎臓などをつくる研究が進んでいる!」と聞くと、「えっ、まさか?」と耳を疑うに違いない。その「まさか」に取り組んでいるのが、富山大学の中村真人教授だ。先生は2002年ごろより、インクジェット式プリンターのヘッド部分に生きた細胞を詰め、ちょうど年賀状を印刷するのと同じような要領でノズルから細胞を吹き付け、生きた人工臓器をつくる研究に挑戦している。いったいどうしてこの研究に取り組み始めたのだろう。

心臓病で亡くなる多くの子どもたちを救いたい

「私は以前、小児科の医師でした。子どもの循環器系の病気、たとえば心臓病などを専門に診てきたのですが、その中には手術しても治らない子もたくさんいました。心臓の臓器を移植すればきっと元気になる子もありましたが、当時(1980年代半ば)は、まだ日本では心臓移植はできない時代で、米国へ渡航して移植を受けることが唯一心臓移植への道でした。医師の中には米国へ患者さんを送って心臓移植を受けられるように手配する先生もおられ、そのような先生にアポイントを取って、自分の患者さんのデータを持って、相談したりもしました。
けれども、わかったことは、その場合にも、異国の地で家族ともども闘病しながら臓器提供者(ドナー)が現れるのを待つことが必要になり、莫大な費用がかかるし、これも大変厳しいのが現状でした。状態が悪くなっていく患者さんを診るにつれ、もっと医学が進歩してほしい、と思わずにおれなかったんです」

臨床医として一生懸命やってはいたけれど、このまま普通に医師の活動をしていても医学の進歩を願っているだけではないか。少しでも早く医学を進歩させるために、自分はどうやって貢献したらいいのだろう。中村先生は、心底そう考えた。
臓器移植が困難ならば、臓器を科学の力で作ればいい。人工心臓の開発を進めるべきではないか───そこで中村先生は、人工心臓のことを調べ、人工心臓の研究が現に行われていることを知り、その研究開発を進めている大阪にある国立循環器病センターに移り、人工心臓の研究を始めた。

「ここで人工心臓の研究に打ち込みました。その後、東京医科歯科大学の生体材料工学研究所に移って、さらに研究を積んでいきました。人工心臓は耐久性が大きな問題でしたが、そのころテルモ社では京大の先生と力を合わせ、従来のものに比べ、抜群に長期使用に耐えられる人工心臓の研究開発を行っていました。早くこんな素晴らしい装置が日本の臨床で使われるといいなと思いましたね」

しかし、人工心臓を子どもに使うとなると、子ども用の小さな人工心臓の開発や、成長する子どものからだにどう対応するかなど、いくつかの大きな問題点があった。
「人工心臓を動かすためには体外から電気を送り続けなければなりません。電源となる機械や重いバッテリーをほとんどの間、ひも付きで担がせていなければなりません。体内で十分発電することができないからです。元気な子どもをしばりつけることなく、さらに、子どもの成長に伴って取り替える必要のない人工心臓に進歩させるためには、どうしたらいいか? 生きた細胞を使って臓器をつくるしかない」と中村先生は発想を転換した。いったいどんな方法でそれが可能なのか……?

中村教授
中村 真人(なかむら まこと)医師・博士(医学)富山大学 工学部 生命工学科 教授

1986年神戸大学医学部卒業、同年金沢大学医学部小児科学教室入局。1996年まで同教室関連病院に勤務。96年国立循環器病センター研究所人工臓器部、99年東京医科歯科大学生体材料工学研究所助教授、准教授。2005~2008年(財)神奈川科学技術アカデミー・中村「バイオプリンティング」プロジェクトリーダーを務め、2008年より富山大学・大学院理工学研究部(工学)教授、工学部 生命工学科教授。

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