中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

寒さ、乾燥、高熱、放射能などのストレスに強い生物が辺境にいる

「チューブワームは、地上の動物のように他の動物や植物を食べて栄養にしているわけではありません。チューブワームのからだにはエラがついていて、ここから海水中の酸素と、熱水噴出孔から出てくる硫化水素というイオウの化合物をとり込んでいます。チューブワームの体内には、イオウ酸化バクテリアという特殊な微生物が寄生していて、取り込んだ硫化水素を利用して二酸化炭素からデンプンをつくり、その一部を栄養としてチューブワームに提供しているのです。

チューブワームの体内解剖図

チューブワームの体内解剖図

チューブワームのように、苛酷な環境条件のもと、いわゆる辺境で生きている生命が、この地球上には他にもいます。彼らが生息するのは、普通の生物が生きるには厳しい環境である海の底、南極、砂漠、地底などの辺境の地で、教科書にはほとんど登場しない生き物です。でも私は、この辺境の地こそが研究のフロンティアであると考えているんです」

長沼先生がとくに注目したのは、塩分の濃度だった。海底火山の周囲で生きている微生物は、濃い塩分から薄い塩分まで幅広い濃度変化に見舞われる。こうした環境で生きている海底のハロモナスという微生物の遺伝子を調べたところ、これに似た遺伝子を持つ微生物が南極にいることが分かった。なぜ、海底3000メートルに生息している微生物と南極にすむ微生物の遺伝子が同じなのか、先生はそうした疑問を抱いて2000年1月に南極に出かけた。南極では、実に興味深い微生物たちに会うことができたという。

「南極は、最低気温はマイナス80℃、降水量はほとんどゼロ、地球で最も寒冷な地で、同時にもっとも乾燥した地です。そして、塩分の濃度が濃いところと薄いところと幅広く分布している。南極にすむデイノコッカス属の微生物は、マイナス17℃でも生存でき、しかも放射線、紫外線、過酸化水素、乾燥などのストレスにさらされてもちゃんと生きているんですよ。ストレスに強いというと、我慢強いと思われがちですが、彼らは傷ついたDNAをすばやく修復することができる能力を持っているからなんです」

南極大陸昭和基地周辺で

南極大陸昭和基地周辺で

南極リビングストン島

南極リビングストン島

長沼先生は、そうした生き物を求めて、サハラ砂漠などの砂漠や北極にまで足をのばしていった。そして、「辺境生物への旅」は、ついに地底生命の探検にまで及んだのだった。
先生が「科学界のインディ・ジョーンズ」と異名をとるゆえんである。

北極スピッツベルゲン島にて

北極スピッツベルゲン島にて

アタカマ砂漠(チリ)にて

アタカマ砂漠(チリ)にて

サハラ砂漠(チュニジア)にて

サハラ砂漠(チュニジア)にて

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