中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

心の時間を紡ぎ出すMTM

客観的な時間は、24時間、いつも一定に刻まれていく。でもその客観的な時間と、私たちがモノを考えるとき、いろんな過去の記憶を引っぱり出し、新しい情報をインプットしながら進む時間、あるいは友達と楽しい時間を過ごしているときの主観的な時間は決してイコールではない。

神経細胞同士の多様なパターンが意識や時間を生み出すとしたら、人工のマシンにだって、記憶を維持しながら環境に応答して意識や内部の時間をつくり出すことができるのではないか。そんなパイロットシステムを生み出そうと取り組んだのが2010年に発表した「MTM (Mind Time Machine)」である。

「MTMは、美術館の6×6メートルの空間に3面のスクリーンを置き、15台のカメラによって映像を制御・ループしていくシステムです。ただ単純に映像を写すだけでなく、ビデオカメラの映像を表示しているモニタ画面をビデオカメラで撮影すると時間のズレが起こりますが、そういったビデオフィードバックを利用して、フレームを逆に写したり、映像をいくつもに分割したり、違う時間の画像を写したりといった多様なモードを組み合わせました。脳の中で、いろんな時間の映像が同時に映し出されるのをマッピングするというイメージです。そうした映像が蓄積されたデータをもとに、自分で動き出すカメラもあります。あらかじめプログラムした動きではなく、外の映像情報とのフィードバックによって、背後の神経細胞モデルが変化し、撮影モードのパラメータがどんどん変化していくんです」

MTM全景

MTM全景

外の光などにも反応するから、雨の日は元気がなかったり、一日のうちでも色が派手な時間があるなど、日周リズムを刻んだりもしたのだという。また、映像が次々に書き替わるときと、ずっと保持しているときがあるが、それらはすべてMTMが外とのフィードバックを通じて自分で生み出したものだ。

「MTMは、自律的に記憶をつくり、システム固有の時間をつくりだす装置といえます。科学というより、半分アートの側面もありますね。科学が誰がやっても99.9%同じになる現象を扱うとすると、アートは0.01%しか起こり得ない、極めて稀な出会いのようなものかもしれません。でも、もし生命の発生や進化がたった1回起きた偶発的なできごとだったとしたら、いま取り組んでいるようなアートが新しい知の地平を開くかもしれません」

PAGE TOPへ