中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

爆薬や麻薬のにおいを嗅ぎつける「超高感度においセンサー」

都甲先生の研究室では、においセンサーの開発にも取り組んでいる。
「実は、嗅覚センサーは味覚センサーを開発するよりももっと手ごわいんですよ。私たちヒトには鼻腔内の嗅粘膜に嗅細胞があり、におい分子が鼻腔内に入ると嗅細胞が興奮し、電気的な信号が発生し、その信号が大脳に伝わります。このシステムは味覚のメカニズムと同じですが、におい分子は生体系で1万種類以上あり、それを388種類のにおい受容体で認識するといわれています。これほど種類が多いと、基本となるにおいに応答するセンサーをつくって計測するような手法では開発できません」

また、識別が必要なにおいの性格によっても設計方法は異なってくる。たとえば、リンゴのにおいは、フルーティな吉草酸エチル、甘酸っぱいイソ酢酸など主に4つの化学物質から構成され、その濃度はppb(10億分の1)レベルだ。これに対して麻薬や爆薬など1種類の化学物質が重要な意味を持つ場合もある。この検出には、人間の鼻では到底無理で、訓練されたイヌだけが嗅ぎ取ることができる、ppt(1兆分の1)レベルの精度が必要だ。6ケタもオーダーが違うものの開発には、それぞれ独自のアプローチが要求される。

先生の研究室でいま開発に力を入れているのが、後者の爆薬などの低分子化合物を超高感度で検出するセンサーだ。
「詳しいことは省略しますが、ある抗原に対してだけ抗体が応答する生体の免疫システムに似た手法を採用しました。たとえばTNT(トリニトロトルエン)という爆薬がありますが、このTNT分子という抗原に抗体が反応することで金属膜表面に生じる屈折率の変化を検出するのです。生体はTNTのような低分子の物質には抗体をつくらないので、分子量が1000倍もあるタンパク質にTNTなどの爆発分子の類似物質を結合させ、複合体の抗原とするなど工夫を凝らしました」

こうしたにおいセンサーが実用化されれば、イヌに代わって麻薬や爆薬を探し出したり、崩壊した建物の中に閉じ込められた人を見つけ出すなど、実際にさまざまな活用方法が考えられるという。

都甲先生が教授を務める九州大学は、2013年11月、味やにおいを研究する研究・開発拠点として「味覚・嗅覚センサ研究開発センター」を開設し、さらに質の高い味覚センサーや嗅覚センサーの開発を目指している。

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