中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

直感─仮説─検証─仮説─検証の繰り返し

では、メダカのこうした行動にはどんな分子レベルのメカニズムが関係しているのだろう? 糸口を求めていろいろな角度から試行錯誤を続けるうちに、奥山先生が発見したのが、顔なじみのオスも見知らぬオスも区別なく、両者の求愛をすぐに受け入れてしまうメダカの変異体だった。
「たまたま別のプロジェクトでメダカを観察していて、このメダカの性行動がどう見てもヘンだな、と気付きました。これまた、野生のメダカを観察し続けた成果ですね。
さて、『オスならだれでもいい』という変異体を見つけたことにより、視認したオスを受け入れるメカニズムがすぐにでも分かると思ったのですが、そうそう簡単には進みませんでした」

どのオスでも受け入れる行動異常を示す変異体は、卵巣や精巣の発生に異常のある変異体だった。
「最初、私たちは性行動に関係する異常なのだから、おそらく生殖細胞の異常が原因だろうと考えたんです。たとえば卵巣の発達に異常をきたすと性ホルモンが出なくなる。ホルモンの異常によってメダカの生殖行動に狂いが生じるのではないかと仮説を立てたわけです」

仮説を検証するために、他の健常な遺伝子を持ったメダカの生殖細胞を、変異体のメダカに人工的に細胞移植して生殖細胞の数を増やしてみたが、相変わらずメスは異常行動を繰り返した。逆に、健常なメダカの生殖細胞の数を減らしてみたが、これまたそのメダカに行動異常はあらわれなかった。
「結局研究はふりだしに戻り、この間、約1年ばかり回り道をしたことになりました。しかし、私たちは回り道をしたことに後悔はしていないんです。研究というのは、仮説を立て、それを実験などで実証する、その繰り返しです。仮説が間違っていると途中で明らかになったら、どんなに時間をかけていたかには関係なくその仮説を捨てて、また別の新しい仮説を立てて一歩一歩山を登っていく。こうした作業を厳密に行って、きっちりしたストーリーにまとめ上げて初めて、誰にでも納得できる論証となるのです」と、奥山先生は語る。

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