中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

野生メダカの生態を地道に観察し続ける

竹内先生と奥山先生はメダカを研究する環境には恵まれていた。このサイトでも紹介した同じ東京大学大学院理学系研究科の武田洋幸教授の研究室でメダカを取り扱っており、飼育方法などのノウハウが蓄積されていたからだ。

研究材料としてのメダカは手に入れた。次に二人が取り組んだのが、メダカの観察だった。
「武田先生から野生のメダカをもらってきて、まず、正常なメダカがどんな行動をとるのか、その観察から研究がスタートしました。研究室のほかのメンバーは分子生物学の最先端の研究に取り組んでいたのですが、私と竹内先生は、水槽の前にビデオカメラを据え付けて、ひたすらメダカを観察し続けたんですよ」(奥山先生)

メダカの求愛行動にはパターンがある。最初にオスのメダカがメスに接近し、メスの下で回転を始める。これはオスの求愛ダンスと考えられている。メスはこのオスを気に入れば、そのプロポーズを受け入れて交叉(密着)し、放卵、放精して体外受精が成立する。しかし、メスがオスを気に入らない場合は、オスは別のメスを探し、また最初の求愛活動に戻って求愛ダンスを行うことになる。

図版提供:竹内秀明

図版提供:竹内秀明

こうしたメダカの行動をひたすら観察し続けた奥山先生は、「メスがオスを一晩見ていた場合は、オスの求愛をすぐ受け入れるが、見ていないオスに対しては求愛を容易に受け入れない」ということに気が付いた。

このことを証明するには、どんなデータが必要だろう? 奥山先生は、オスの求愛から体外受精が成立するまでの時間を測ることで、メスの「オスに対する好み」が計測できると考えた。
「メダカの求愛活動を観察しながら、求愛回数や拒絶回数などさまざまなデータをとっていく中で、時間がキーになることは分かってきました。でも、どうしても数値がブレてしまい、納得できるデータがなかなか収集できなかった。なぜ数値が一定しないのか観察を続けた結果、毎週決まって火曜日のデータがすごくブレていることに気付いたんです。休日のエサやりの関係で、メダカの空腹度が違っていたのです。まず食欲が満たされてから、性欲のモードになるわけです(笑)。エサの量を一定にしたところ、実験誤差が一気に少なくなりました」

研究者はともすれば、早く論文を書きたいと焦るあまり、こうした地道な観察やデータ取りの作業をおろそかにしがちだが、最初の約2年の観察によって、何が正常な状態なのかを体得できた点が、今回の論文の基礎となったと、奥山先生と竹内先生は振り返る。
こうしてメスが前日から見ていたオスを視覚で記憶しており、見たことのないオスよりも見知ったオスを配偶者として選択するということは確信できた。

さまざまな変異体のメダカを飼育している。

さまざまな変異体のメダカを飼育している。

手で合図をすると、多くのメダカはやってくる。

手で合図をすると、多くのメダカはやってくる。

赤生姜色のメダカ

赤生姜色のメダカ

地道な観察やデータを取る作業が重要なんだ
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