中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

新しい点を打つ研究に取り組んでほしい

竹内先生と奥山先生は、今回の共同研究をどのように次の研究のステップにしようと考えているのだろう。
「今回のGnRH3ニューロンの研究は、異性の選択に当たってどんな遺伝子的なバックグラウンドがあるかというだけでなく、個体がどのように配偶者を選ぶのかを『意思決定』という神経基盤から解明したということが重要なポイントになっています。私たちの研究では、いわばメス1匹とオス2匹という社会の最小単位が研究対象なわけです。これから先、さらなる関係性の検証をすることで、たとえばオス同士の関係性の考えることで『独占欲の神経基盤』などの新しい領域に踏み込んでいく糸口になるでしょうし、さらには『ソーシャル・ニューロ・サイエンス(社会神経科学)』の分野に新たな可能性を開いていくと思います」と奥山先生は語っている。

竹内先生は「メダカについては恋愛以外にもおもしろい行動異常を起こす変異体が見つかっているのでそれらを通じてメダカの社会行動の研究を掘り下げたいですね。それと、これまでは『社会脳』といわれるものはヒトにしかないと考えられてきましたが、メダカをテーマにそうした社会脳のメカニズムを明らかにしていきたい。たとえばメダカなど魚類の記憶の仕組みはまだ正確には分かっていませんが、ヒトの記憶に関係する海馬が魚類にもあるということが解明されてきました。さらに進んで、メダカを通じてヒトの心の起源などに迫ってみたいと考えています」と、今後の展望を語ってくれた。こうした研究が進めばゆくゆくは、メダカだけでなく、私たちが恋をして相手の異性をどのように選択するのか、その心のありようが神経機構から明らかになる日が来るかもしれない。

共同研究を進めてきたお二人だが、奥山先生は現在マサチューセッツ工科大学(MIT)でノーベル賞受賞者の利根川進博士の研究室のスタッフとして研究に励んでいる。

MITの利根川ラボにて

MITの利根川ラボにて

「竹内先生との共同研究を通じて『相手を見知っている』あるいは『見知っていない』とはなんぞや、記憶するとはどういうことかに興味を持ったんです。記憶学習のラボなら利根川研究室は世界有数です。これからは記憶を人工的に操作する研究にも挑戦してみたい」と抱負を語る。
研究室が離れても、まだまだ二人で探究してみたいテーマは多い。

Skype会議の風景

Skype会議の風景

いまは共同研究もワールドワイドな時代なんだ。

最後に中高校生へメッセージを頂戴した。
奥山先生は「研究で大切なのはワクワクすること。この発見の向こうに大きなストーリーが描けると、好奇心を持って取り組んでほしい。それと、どんどんチャレンジすること。ドラえもんの中で、失敗するのが嫌なのび太くんが「もう少しうまくなってから練習したほうが…」と言う彼らしいシーンがあります。でも実は同じように、よく『○○ができるようになってから挑戦する』とか『もうちょっと英語がうまくなってから留学する』と決断を先延ばしにする人が多い。でも、チャンスは待ってくれません。ぜひ『今しかない!』と一歩踏み出してほしい」

竹内先生は、「薬学部の恩師である名取俊二名誉教授には、『点と点を結ぶような研究をするのではなく、新しいところに点を打つような研究をしなさい』と言われました。これまでの延長線上にものを考えるのではなく、新しい地平を切り開いていくことの大切さを教えてもらったような気がします。中高校生も、新しい世界をつくってほしいですね」

(2014年2月17日取材)

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