中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

将来はカプセル化した健康飲料が誕生?

いま、わが国の過敏性腸症候群は、一説には潜在的な患者を含めて1000万人~3000万人もいるといわれている。さらに、潰瘍性大腸炎が全国で15万人、クローン病が4万人~5万人、腸系ベーチェット病が約1万5000人。もしこれらの病気に糞便移植が有効だとすると、腸の難病に苦しんでいる人には朗報だ。さらに最近の研究では、腸内細菌は脳の機能にも関係していて、糞便移植が自閉症などの病気にも有効ではないかという研究も行われているという。

今後研究が進み、糞便移植の効果がさらに確かめられた場合、将来はどのように進展していくのだろう。
「輸血の場合には、1パックの中に含まれている赤血球の数や採血場所、日時などがロットで品質管理されています。同じように糞便移植も、将来的には、腸内細菌の数や種類など、一定品質のものがパッケージ化されて提供されるようになっていくのではないでしょうか」
何しろ、便1gには乳酸菌飲料1本分の数百倍、数千倍もの腸内細菌が含まれているのだ。糞便から採取した有用菌を培養して、疲れたら飲む栄養ドリンクにかわるカプセルのような健康飲料や医薬品が出てくるかもしれないなどと、想像がふくらむ。

こうした糞便を活用した治療やユニークな研究は、慶應以外にも順天堂大学、東京医科歯科大学、理化学研究所をはじめ全国で行われているが、研究の楽しさ、醍醐味はどんなところにあるのだろう。
「やはり、今は根治できない難治性の腸疾患を治すことができ、少しでも患者さんの役に立つ可能性があるということですね。そして腸内細菌の研究がさらに進み、カプセルなどが開発されて腸疾患の予防に使えるようになるとしたらこんなにわくわくすることはありません。この分野の研究では、腸内細菌のコロニー形成の謎のように、まだわからないことも多い。もしかするとノーベル賞をとるような研究者が、私のそばにいるかもしれないわけで、そうした研究者と一緒の時間を過ごせるのも醍醐味と言えるでしょう」

最後に中高校生へのメッセージをおうかがいした。
「答えのある問題を解くよりも、自分の人生の間に解決ができそうな問題を設定して、挑戦してみてください。自分が生きているうちに答が出ない問題を設定すると、人生を台無しにしかねないから注意が必要ですが(笑)。生きている間にこれなら答えられそうという問題を創れるかどうか、それが才能といえるかもしれませんね」

(2014年8月21日取材)

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