中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

同一の細胞由来の組織づくりにこだわる

「生命の定義はいろいろありますが、食べ物(栄養)や空気(酸素)を外部からからだの中に取り入れてエネルギーをつくり出し、非平衡状態を維持するシステムといえます。こうした活動で重要な働きをするのが肝臓です。肝臓は、食べ物に含まれる糖やタンパク質、脂肪などをからだの各器官が使える形に変えて貯蔵し、必要に応じてエネルギーとして供給するほか、有害な物質を解毒する働きを持っています。したがって人工生命づくりにあたっては、肝臓を中心とした代謝機能を備えたシステムとすることを第一条件としました」

このとき、田川先生がこだわったのが、肝細胞だけでなく、内皮細胞も備えた組織構造にすること。そして、心臓や膵臓など周辺組織も含めて、同一の細胞由来の(モノクローナル)システムをつくりあげることだった。
「それぞれの細胞のパーツを別々の細胞バンクから寄せ集めた、年齢もDNAもバラバラなものを一つの生命と呼ぶことはできません。私たちヒトが一つの受精卵から出発し、200種類以上もの細胞へと分化したように、一つの細胞種から複数の組織の細胞が互いにコミュニケーションを取り合う組織構造としたい。そのためにも、からだの中で肝臓が形成されるのと同じようなアプローチを取ることが重要だと考えました。そこでES細胞やiPS細胞から肝臓を中心とした組織をつくり出すことにチャレンジしたのです」

まずマウスのES細胞から胚様体をつくり、その一部を拍動する心筋細胞へと分化誘導させた。その後心筋細胞の周囲に内皮細胞と肝芽細胞が出現し、肝芽細胞のコロニーの中に内皮細胞のネットワークが張りめぐらされ、約16日間で肝組織状のものが形成されていった。

器官形成のプロセス

器官形成のプロセス

内皮細胞がアルブミン陽性細胞のコロニーの中へ入り込んでいる”肝芽”のような組織構造が確認できた

内皮細胞がアルブミン陽性細胞のコロニーの中へ入り込んでいる”肝芽”のような組織構造が確認できた

「心臓は拍動しますし、肝様組織では、肝細胞でつくられるアルブミンタンパク質を産生したほか、アンモニアの代謝能力が高く、解毒で重要な働きをする物質の活性度も高いことがわかりました。また、インスリンやグルカゴン産生細胞の集団、すなわち膵臓に近いものも出現していることも明らかになりました」

つまり、心臓、肝臓、膵臓などの組織が分化誘導されたというわけだ。冒頭で先生が見せてくれたvHELPは、こうした心筋、肝臓、膵臓を一緒に分化誘導するための培養装置なのだった。細い流路が切ってあって、培地に栄養が流れ込むようになっているほか、余分なものを排出したり、培養途中で死んでしまった細胞をトラップする仕掛けや、薄い膜によって流路が詰まらないような工夫なども凝らされているという。

マイクロ培養チップの構造イメージ。研究を重ね、現在はバージョン7とのこと

マイクロ培養チップの構造イメージ。研究を重ね、現在はバージョン7とのこと

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