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第26回 代謝作用をもった人工生命をつくる!~東京工業大学大学院 生命理工学研究科 田川研究室を訪ねて~

いま、生命体を人工的につくりだす「合成生物学」が注目を集めている。といっても、今回紹介する人工生命は、ミュータントを創り出そうというようなSF小説的な話でもなければ、遺伝子を化学合成してバクテリアを生み出そうという研究でもない。ES細胞やiPS細胞から肝臓やその周辺組織をつくって小さなチップに収め、代謝作用をもった世界最小の「哺乳類の人工生命体」として活用しようというものだ。東京工業大学大学院の田川陽一先生の研究室を訪ね、研究の実際や今後の可能性をうかがった。

キャラメルサイズのマイクロ培養装置

みんなは世界最小の脊椎動物はどんな動物か知っているだろうか? 2012年にパプアニューギニアで発見された小さなカエルがそれで、身長はわずか7.7mmなんだそうだ。
では、世界最小の哺乳類はというと、パキスタン南西部にすむバルチスタンコミミトビネズミ。こちらは尻尾を除いた体長がたったの2cm、体重5gぐらいだという。

田川先生は、この世界最小の哺乳類に大きな興味を持っている。
「この2cmぐらいのサイズが、哺乳類のシステムをつくるのに最低必要な大きさなのかもしれません。ですから私が挑戦している人工生命体も、2cmをターゲットとしようと考えているんです」
と言って先生が取り出したのが、キャラメルくらいの大きさのプラスチック。中央部が層になっていて中に小さな流路があるように見える。

「これは島津製作所と共同開発している人工生命体用のマイクロ培養チップです。この開発したチップにさまざまなからだの組織を培養して、培地を血液のようにして循環させます。さまざまなからだの組織は、ES細胞やiPS細胞から作ります。現時点では、心臓、内皮細胞、肝臓、膵臓に似た組織を作ることに成功していて、「vHELP」と呼んでいます。vHELPというのは、『in vitro Heart Endothelial Liver Pancreas』、つまり心臓、内皮細胞、肝臓、膵臓で、代謝をはじめ生命としてのミニマルな機能を実現するための装置なんです」
このvHELPは、いったいどんな仕組みなのだろうか? じっくり話をうかがうと———。

vHELP

vHELP

田川 陽一
田川 陽一(たがわ・よういち) 東京工業大学大学院 生命理工学研究科 生体分子機能工学専攻 准教授

1989年東京大学工学部工業化学科卒業。94年同大学院理学系研究科生物化学専攻博士課程単位取得退学。94-97年東京大学医科学研究所教務職員。97-98年ベルギー・ルーベン大学レガ研究所博士研究員。信州大学医学部助手、講師。同大学ヒト環境科学研究支援センター助教授を経て、2005年4月より東京工業大学大学院生命理工学研究科助教授。専門は再生医工学、発生工学、合成生物学など。

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