中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

光で脳と会話する新たな研究ステージへ

光遺伝学の本格的な研究はまだ始まったばかり。それだけに、今後のさまざまな可能性に興味が尽きない。八尾先生は言う。
「キアヌ・リーブス主演の映画『マトリックス』は、脳とコンピュータ、仮想現実と現実が錯綜した世界を表現し、大評判になりましたね。『マトリックス』では脳とコミュニケーションを図るのに電極を脳に挿入しているのですが、私たちが研究しているオプトジェネティクスでは、もっと簡単に脳とコミュニケーションを図れるようになると思いますよ。
たとえば、近赤外線で駆動すれば表面から1cmぐらいの深さまではコントロールできるので、帽子をかぶる感覚で仮想現実をリアルなものと感じさせることなどが容易にできるでしょう」

超感覚の獲得もできそうだという。
「光受容タンパク質を、大脳の一次感覚領域のニューロンに特異的に発現させるのです。 赤外線や超音波を感知するとか、GPSによる位置情報を、たとえば背中や足の裏の触覚などと連動させて刺激を感じるようにすると、本来ヒトには備わっていない情報までも光で獲得できるようになります」
八尾先生の研究室では、昨年3月、なんと皮膚で光を知覚するスーパーラットも作り出した。皮膚の触覚を伝達するのは脊髄にある「後根神経節」という部位だが、ラットの後根神経節にチャネルドロプシン2を発現させ、足裏に青色LED を照射すると、まるで何かに触れたように足を動かした。つまり光を触角として感じる、トランスジェニックラットが誕生したのだ!

足の先で光を触角として感じるトランスジェニックラットの様子(動画)

「この研究は、私たちの脳がどのように形、動き、手触りなどの触覚から意味を読み取るかの研究に応用できるのです。私たちの触覚のベースになっているのはドット(点)ですが、そのドットが集まって○とか□とか柔らかいとかの意味を形成します。なぜ、ただのドットの集まりが意味に変換されるのか、まだわからないことばかりですが、そうした研究にも挑戦していますよ」

八尾先生の研究室には生物学から工学、化学、医学などさまざまな分野の大学院生が集まっている。脳というブラックボックスに光をあてるには、常識にとらわれない発想と異分野の独創的なアイデアをぶつけ合い、もみあい、たゆまぬ努力を続けることがブレイクスルーを生み出すと考えている。
「私たちの研究は、”what ? “ ” how ?” “ why?” などの好奇心が原動力となって展開する基礎研究です。基礎研究から生まれる発明は、意外性に飛んでいて、私たちの生活を一変させてしまうことがあります。それが基礎研究の醍醐味でもありますね。オプトジェネティクスによって、光を使って脳の細胞機能のオンオフができるということは、光で脳と会話できるということ。研究を進めていけば、光で脳と直接情報をやりとりする新たなブレイン・マシン・インターフェース(BMI)技術が生まれることでしょう。からだを動かすイメージでロボットを動かしたり、考えるだけでコンピュータを操作するといったSF的な技術にも結びついていくのです。ぜひ、光と脳の会話をテーマに、一緒に新たな世界を切りひらいていきませんか」

(2015年7月2日取材)

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