中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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第26回 代謝作用をもった人工生命をつくる!~東京工業大学大学院 生命理工学研究科 田川研究室を訪ねて~

いま、脳科学の最前線で、偽の記憶をつくり出したり、いやな記憶とハッピーな記憶を入れ替えたり、ノンレム睡眠を誘導する・・・といった、脳を操作するSFの世界のような研究が進んでいる。それを支えるのが「オプトジェネティクス(光遺伝学)」という技術だ。記憶など脳機能のブラックボックスを解明するだけでなく、再生医療やリハビリ、工学分野でも大きな応用可能性を秘めているという。我が国のオプトジェネティクスの第一人者である東北大学大学院の八尾寛教授に、「オプトジェネティクス」とは何か、今後の展開をうかがった。

偽の記憶をつくり出すなど、脳科学研究を革新

ここ数年、脳科学の分野で革新的な発表が続いている。その一例が2013年7月に理化学研究所と米マサチューセッツ工科大学などの研究チームが発表した、マウスに偽の記憶を植え付けることに成功したというニュースだ。マウスの脳細胞をオプトジェネティクスの技術で操作することによって、実際は恐怖を経験していない箱の中にマウスを入れても、そこで足がすくむ恐怖反応を示したというのである。
その後、2014年8月には、同じチームが光を用いて「いやな出来事の記憶」と「楽しい出来事の記憶」をスイッチさせることに成功したと報道された。

また、このサイトの「森の教室 シリーズ2 第2回 記憶のヒミツ」でも報告したが、富山大学大学院の井ノ口馨教授が、異なる古い記憶を人為的に組み合わせて新しい記憶をつくり出したというニュースも、オプトジェネティクスを応用したものだ。
このほか、マウスにノンレム睡眠を誘導する、アルツハイマー病を引き起こす脳の変化と神経活動の関係を実証する、てんかんの発作モデルを開発するなど、記憶や脳神経科学の分野でさまざまな新しい知見をもたらしている。

いったいオプトジェネティクスとはどんな技術なのだろう?
「ひとことで言うと、遺伝子を導入して細胞に光に応答するタンパク質を発現させ、その細胞に光を当てることで細胞の機能をコントロールする技術です。文字通り、光(opto)と遺伝学(genetics)を組み合わせて、これまでブラックボックスだった脳研究を大きく進展させる可能性を秘めているんですよ」と、日本におけるオプトジェネティクスの創始者の一人である八尾教授は教えてくれた。
では、オプトジェネティクスはどのように開発されたのだろうか?

八尾 寛
八尾 寛(やお・ひろむ) 東北大学大学院 生命科学研究科 脳機能解析分野 教授

1977年京都大学医学部卒。81年京都大学医学部医学研究科修了。同年日本学術振興会奨励研究員。81年~93年京都大学医学部助手。85年~87年米国ワシントン大学マグドネル奨学研究員。93年京都大学医学部講師。95年~2001年東北大学医学部教授。2001年より現職。99年~2005年科学技術振興機構戦略的創造研究(CREST)「脳を知る」研究代表者。緑藻類の一種のクラミドモナスの光受容チャネル(チャネルロドプシン)を神経細胞に発現させることにより、神経細胞の活動を光で制御できる技術を世界に先駆けて開発した。主著・論文に『オプトジェネティクスの未来展望』「チャネルロドプシン-オプトジェネティクスへの招待」「光遺伝学に有用なツール開発:分子、遺伝子導入、光照射の実際」「学習・記憶のシナプス前性メカニズム」など。

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