中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

隠岐の島のフィールドワークでカエルの合唱にひきつけられる

そもそも合原先生がカエルの合唱の研究を始めたのはどんな経緯からだろう?
「高校時代に一番好きだった学科は物理でした。坂をボールがどう転がっていくのかなども、重力などの条件を数式で設定しておけば予測することができる。身の回りの事象から自然、天体や宇宙まで、私たちを取り巻く森羅万象を数式で記述できる物理の法則とその面白さに興味を持ち、大学に入ったら物理を勉強しようと思っていました。生物についても興味を持っていたんですが、生物は物理を学びながら趣味でやろうと考えていたのです」

そんな合原先生に大きな転機をもたらしたのが、京都大学で「野生生物研究会」に入部したことだった。このサークルは人数こそ少なかったが、さまざまなジャンルの理学部の先輩たちが多く在籍していたという。
「サークルには両生類、昆虫、魚などの動物から植物まで、いろいろな生物に興味を持った学生が集まっていました。私はカエルの観察班に入って、沖縄の西表島や島根県の隠岐の島に出かけてカエルやヘビを追いかけまわしていたんです(笑)」

大学の授業では力学や統計力学を面白く学んでいたが、2年生の時に隠岐の島に行き、たくさんのカエルがタイミングを合わせて鳴いていることに興味をひかれた。
「ひょっとしたらカエルの鳴き声も、坂道を転がるボールと同じように、物理の問題として扱うことができるのではないか、とひらめいたのです。そして、カエルを研究したら一生楽しめそうなテーマが見つかりそうだと思いましたね(笑)」

こうして、合原先生はカエルの合唱の探究に乗り出していく。
「4年生になると卒論を書かなければならないのですが、テーマはもちろんカエルの鳴き声の法則を発見するというものでした(笑)。しかし、いきなり野外のカエルを対象とすることは無理なので、大学の周辺で2匹の二ホンアマガエルを捕まえてきて、虫かごに入れて下宿で鳴かせることにしました。当時はまだよいICレコーダーはなく、120分のカセットテープにカエルの鳴き声を録音したのですが、夜通し鳴くものだから、2時間ごとにテープを入れ替えなければならないんです。しかもうるさいことこの上ない。うとうとしているとカエルの鳴き声が幻聴のように聞こえてきたりしましたね(笑)」
最初は、2匹のカエルは声を合わせて同時に鳴くものだと思っていたが、同期しつつ交互に鳴いているらしいことが分かってきたという。

下宿での実験風景

下宿での実験風景

アマガエルを虫カゴに入れて鳴かせて録音したんだって。けっこうローテク!?

それでは3匹ではどうかとなると、ことはそれほど単純ではない。仮に2匹と1匹が交互に鳴くとして、AとBのペアとCが鳴くのか、AとCのペアとBが交互に鳴くのか、あるいは、3匹が順繰りにA-B-Cと鳴くのか、それとも入れ替わって鳴くのかなど、多様なパターンが考えられる。
「3匹それぞれの鳴き声の成分を分離して、音声解析していく必要がありました。そこで聖徳太子ロボットで有名な奥乃博先生の研究室とコラボして、分析を進めました」 この論文をまとめたあと、合原先生はさらに、多くのカエルが、室内ではなく野外でどういう法則で鳴くかを探究したいと考えた。

奥乃研で3匹のカエルの鳴き方を研究

奥乃研で3匹のカエルの鳴き方を研究

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