中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

パナマやオーストラリアのカエルも研究

問題は、野外で鳴くカエルの声をどう収録して分析するかだ。最初は野外にマイクをたくさん置いてみた。しかしどこでカエルが鳴いているのか、位置を特定するのが難しい。そこでひらめいたのが、「鳴いたら光る」というアイデア。京都大学大学院情報学研究科の水本武志先生に協力してもらい開発したのが、先述の「カエルホタル」だ。
「カエルホタルの特徴は、しくみがシンプルで、軽く、簡単に持ち運びできること。しかも1台数千円程度とそれほど高くない。カエルがいそうな田んぼの畔道に50cm間隔で設置していくのですが、近くで鳴いているカエルの鳴き声をキャッチすると明るく光り、それより遠くて小さな声の場合は少し暗めに光ります。その様子を録画しておくわけです」。

カエルホタルを実際に初めて設置したのは隠岐の島の棚田だった。カエルホタルのメカニズムに詳しい情報系の学生は、どちらかというとインドア派で、最初はカエルを見ただけで「ギャッ」と叫んで触ることもできなかったが、次第に慣れていき、カエルを捕まえるのもうまくなったという。
まだ明るいうちにカエルホタルをセッティングして、録画後に回収。どこの田んぼでカエルがよく鳴くのか、カエルホタルをどうチューニングするかなど、ノウハウを積み重ねていった。

隠岐の島でのカエルホタルでのデータ収集は、修士課程2年から始まり、その後、特別研究員として理研に在籍していた時も継続して行い、トータルで5年に及んだ。
「その間、いろいろ試行錯誤してカエルホタルのシステムにも改良を加え、たくさんのカエルの鳴き声を安定的に計測できるようにしていきました。最初は一カ所の田んぼでデータをとっていたのですが、複数の場所でデータを収集するなどして精度を上げ、シミュレーションモデルと合うかどうかをいろいろな角度からチェックし、論文を仕上げました」
それが先に述べた「Scientific Reports」オンライン版に掲載された論文である。

カエルホタルと数理モデルを使ったカエルの合唱の謎の解明は、一定の成果をあげているが、たとえばカエルが交互に鳴くのは本当に縄張りや求愛行動なのかなど、まだ推測の域を出ないという。また、こうしたカエルの合唱の法則は、二ホンアマガエルだけの特徴なのか、外国のカエルにも適用できるのかも探りたいと、合原先生たちはオーストラリアやパナマなどに出かけて調査を行っている。

「パナマは湿度が高くて暑いから、研究活動でいちばんしんどかったのはエアコンがなかったこと。天井に大きなファンが回っているのだけれど、その取り付けが悪く、今にも落ちてきそうだった。でも暑いからその下で涼むので、研究も命がけなんですよ(笑)」
と当時を振り返る合原先生だが、フィールド調査ではさまざまな発見があったという。
「パナマにはカエルの鳴き声を聞いて寄ってくる蚊や、カエルを餌にしているコウモリなどがいるんです。縄張りを主張したり求愛のために鳴いたりすると、天敵の蚊やヘビやコウモリに居場所を知らせることにもなってしまう。それでもなお、鳴き続ける意味はどんなところにあるのか、生き物の行動は不思議であり、奥が深いと思いますね」
今はパナマの学生が沖縄に来てカエルの調査をするなど、共同研究の輪が広がっているのだそうだ。

フィールド調査を行ったオーストラリアの国立公園とそこに棲むアカメアマガエル

フィールド調査を行ったオーストラリアの国立公園とそこに棲むアカメアマガエル

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