中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

数理モデルを使った研究の可能性

ガリレオ・ガリレイは「自然の書物は数学の言語によって書かれている」と述べたという。カエルの合唱やコウモリの餌の探索だけでなく、数理モデルを使って生命科学の謎に迫ろうという研究はいろいろある。

例えば、このシリーズの第15回「生き物のからだの模様をつくりだす仕組みにズーム・イン!」で取り上げた大阪大学大学院生命機能研究科の近藤滋教授は、タテジマキンチャクダイの模様の変化は、チューリングの「反応拡散系」の数式で説明できると証明した。また、インフルエンザなどの感染症の広がりを数理モデル化することで、感染症がどのように流行し始めるのか、予防のためにはどんな介入の仕方が有効であるのかなどのシミュレーションに役立てられているし、神経細胞のネットワークがどのように構築されていくのかを数理モデル化しようという研究も盛んに行われている。
合原先生は、「がんがどのように発現し、それがどのように変わっていくのかが数理モデル化できれば、短期的な病状の予測が立てられ、医療的な面でも意義があるはずです」と、数理モデルを使った研究の意義や広がりを教えてくれた。

では、カエルの鳴き方の分析は、どんな応用可能性があるのだろうか。
「例えば、情報通信に応用することができます。農業では気温や日照が作物を育てるための重要な要素になるので、センサー付の無線端末を空間上に配置しておいて、温度や湿度、日照などの情報をとるセンサーネットワークが用いられています。しかし、センサーは構成上の都合で、情報を発信している間は情報を受信できないようになっています。カエルが交互に鳴くことによって高いパフォーマンスを出しているのなら、カエルのこのシステムを活用した高度な制御技術が構築できる可能性があるでしょう。生物は進化の過程ですごい技術を身につけているので、それを応用した技術で社会に貢献することができると考えられます」

こうした社会的な貢献に結びつくことも期待できるとはいえ、先生のモチベーションはあくまで「カエルやコウモリが大好きであり、彼らを相手に研究することがすごく楽しい」ということ。とくに「研究者仲間とフィールドワークでカエルやヘビを追いかけているときが一番楽しい」のだそうだ。

とにかく好奇心旺盛で、フィールドワークで得た発見がまた合原先生の新たな研究のエネルギーになっているに違いない。これからのテーマはいろいろな種類のカエルの行動を世界中に足をのばして調べることだという。
「中高校生のみなさんも、ぜひ興味あることを見つけてほしいですね。ただ今のうちはできるだけいろいろなものに興味をもつほうがいい。私の場合、この研究のバックグランドになっているのは物理でしたが、何かにこだわりを持ってしっかり勉強していると、途中で興味が入れ替わってもその勉強が役に立ちますから」

(写真・動画提供:合原一究先生)

(2015年8月20日取材)

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