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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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メラニン色素を分子モーターが運んでいる

皮膚の色に関係するのは、メラニン色素だということはみなさんも聞いたことがあるだろう。メラニン色素は色素細胞内で生成され、メラノソームと呼ばれる袋に貯蔵されて分子モーターによって運ばれ、皮膚や髪の毛の細胞に受け渡される。

「この動画をご覧ください。魚のウロコに付いている色素細胞に、ある種のホルモンを添加することによって、メラノソームが瞬時に凝集する様子を写したものです。1個1個の丸い粒がメラノソームで、分子モーターのダイニンが微小管に沿って細胞の中心部へと運んでいきます。魚やカエルは環境変化に応じて体の色を変えることが知られていますが、これも分子モーターがメラニン色素を運んでくれるおかげ。メラニン色素を凝集させたり、逆に広げたりして体の色を変化させているのです」

色素細胞の中でメラニン色素はメラノソームとして貯蔵され、ホルモンを添加すると、分子モーターの一つのダイニンによって微小管上を運ばれ、細胞の中心部に凝集する。この結果、色素細胞の色が変化する。写真は魚の色素細胞で、右側写真の赤線は細胞の輪郭。

「いまネット通販が盛んになって宅配便の利用がすごく増えていますが、人手不足で輸送を担うドライバーが少なくなると、例えばお中元の荷物が滞ってしまったり、必要なときにモノが届かないなど、さまざまな問題が発生しますよね。これと同じように、体内で分子モーターによる宅配が阻害されると、たくさんの病気と関連します。とくに神経細胞の場合は、宅配の不具合がアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経疾患に関連するともいわれています。そこで、分子モーターが荷物を運ぶ際の輸送力を物理の視点で調べようというのが、私の研究テーマなんです。輸送力は物流の効率を表す物理量ですから」

生物を対象に物理を使うなんて不思議に思うかもしれないが、タンパク質が「ミクロの機械」なら物理の対象であるのは納得だ。