公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第2回
顕微鏡の専門家が
分子モーターから紐解く生物物理学

第3章 異分野の研究者とのつながりが研究の発展に

長野
先生は、いろいろな生き物の動きを顕微鏡で調べて大きな成果を上げてこられたそうですが、何かきっかけがあったのですか。
西坂
私の尊敬する教授で、大阪市立大学に宮田真人さんという面白い方がいます。10年くらい前に、彼からあるアドバイスを受けました。「西坂さんは顕微鏡の専門家で、すごいものを作っているんだけど、もうちょっと広い視野で物を見ていいんじゃないかな」っていうようなアドバイスです。それまでは哺乳類から取り出したタンパク質の性質を一生懸命見ていたんだけど、世の中にはバクテリアとか、アーキア*という生物とか、我々とは全く違う未知の生物が山のようにいると。それを西坂さんの顕微鏡で調べたら、どんどん新しいことが分かるんじゃないかっていうんですね。
私、分子モーターの研究、本当に一生懸命やってきたんですけど、調べられたのは地球上の生物の中のほんの一部の種だけなんですね。世の中にはたくさんの生物がいて、それぞれ一つ一つが、全然違う分子モーター持っています。それで、そちらのほうの研究も始めました。
アーキア
和名で「古細菌」とも呼ばれる微生物で、真核生物でも細菌(真正細菌)でもない第3の生物群に分類される。核を持たない原核生物だが、生化学的性質を調べると真正細菌より真核生物に近い性質を持つ。環境適応力が高く、光が届かず栄養分の乏しい海底の堆積物の中や、死海などの塩分濃度の高いところ、海底の熱水噴出孔の近くなどでも生きられる種が存在する。
日向
ぼくたちとは全く違う生き物では、モーターの動作原理なども違うんですか?
西坂
例えば、アーキアという生き物は、火山とか温泉とか、あるいは海の一番深い所とか、いわゆる極限の環境、ものすごく特別な環境でしか生きられない。そのせいか、私たちの体とか、あるいは通常の環境にいるバクテリアとかとは違うタンパク質を体の中に持っています。そして、アーキアの動きっていうのは、実は私も調べてびっくりしたんですが、ほとんど見ることができていなかったんです。
このアーキアの本体とスクリューと同時の動きを、世界で初めて画像化することに成功しました。どういうふうに画像化したかっていうと、さきほどと同じで蛍光色素を、正確には色素ではないんですけど、光の粒を表面にまぶしたんです。これを、うちの研究室の顕微鏡ですごく細かく見ると、ちゃんとこういう形のスクリューがこういう速さで、しかも形を変えずに一定速度で回っているとか、そういうことを全部明らかにすることができました。世界でアーキアの運動をここまできっちり調べたのは初めてなので、これは2016年に『Nature Microbiology』という著名な雑誌に論文を載せることができまして、世界の注目を浴びています。

アーキアべん毛に蛍光色素を付着させて動態を光学顕微鏡で観察した様子(2016年8月26日学習院大学のリリースより転載)

高原
質問なんですけど、さっき見ていたATP合成酵素のモーターみたいなのが回っているあの動きに、周期性ってあったりするんですか。一定に回っている感じがしなかったので、もしかしたら波があるんじゃないかって思って。
西坂
なるほど、それは素晴らしい質問です。実はそれこそが世界中の研究者が知りたかったことなんですね。というのは、横から見た構造ではあまり分からないですが、真ん中が軸です。周囲がシリンダーになっている。そのシリンダーに、ATPがくっついて回るんですけど、果たしてシリンダーにATPは、いくつ付くかっていうのが、研究者がずっと悩んでいたことだったんです。正解は三つ付くんです。なぜ三つ付くのか。実はですね・・・
須藤
βの数?
西坂
βって知っているんだ。習いました? びっくりしました。そうなんです。シリンダーというのがαとβでできている。α、β、α、β、α、β。αとβの隙間にATPがくっつくとされている。この回転をよく見ると、3回ステップしています。つまり、周期性があるんです。その周期性は、この構造から来ているんですね。

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