公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第2回
顕微鏡の専門家が
分子モーターから紐解く生物物理学

第4章 好きなものを突き詰めることに価値がある

須藤
顕微鏡をご自分で作った、と、さっきおっしゃったんですけど、作るために必要な知識ってあるんですか? やっぱり工学系の知識も必要ですよね?
西坂
やっぱり物理の知識と、もちろん数学の知識も必要なんですけれども。ただ、面白いんですけど、どんなに物理に詳しかったり、どれだけ装置とか原理に詳しかったとしても、最終的には経験と勘が、実はすごく効きます。
そういう蓄積は私一人でできたわけではなくて、私がいた研究室の一つで、たまたまそういうのにすごく詳しい人に会ったことがあるんですね。その人からいろいろノウハウを盗みました。ですからみんなが、高校とか、大学1、2、3年生とかで習う学問。今スーパーサイエンスハイスクールとかで習っている学問プラス、どこかの研究室に飛び込んで、そこでしか習えないノウハウみたいなのがあって、そういうのって、すごく大事だと思います。顕微鏡みたいなものでさえ、そういうのがいっぱいあります。
須藤
なるほど。
西坂
あとは情熱ですよね、月並みですけど。私は昔、「光学部品オタク」ってよく言われてたので。光学部品ってカタログがすごいんですよ、分厚くて。それを20代のときとか、喫茶店とかで隅から隅まで読むのが大好きで、そういうところは、あるんじゃないかと思います。
須藤
そういうオタク的な部分が、のちのち役立ってくるんですか?
西坂
役立つっていうか、わざわざオタクになるっていうのも大変だから。それは好き嫌いですかね。私の友達は、分子生物学オタクで、もちろん物理オタクはいくらでもいるんですが。分子生物学オタクは、新しい分子生物学の技術とか酵素が見つかると、とにかく試してみたいっていう、そういう人いますね。そういう人が教授になりますね。道を知らず知らずのうちに、極めてるっていう。ねらってできるものでもないんだけど、いわゆる教科書に書いてないものが、実はものすごく大事だっていうことは、すごくあります。
須藤
以前、東京理科大学の学長先生が、同じように自分で機械を作ったっておっしゃったんですけど、研究者になるときに自分で機械を作る機会っていうのは、やっぱり出てくるんですか。
西坂
機械に強くないと、研究者になれないかもっていうようなことを思ってほしくないので、これは大事なメッセージとして言っておきたいんだけど、得意なものが機械じゃなくてもいいです。ただ得意なものがあるっていうのは、すごく大事だなと思います。
身近な例だと、うちの助教なんかは、バクテリアが大好きなんですよ。彼と私が組んで、ここで新しい学問が生まれたりする。やっぱり何かが得意なものを持っている人がいたら、また別の得意なものを持っている人がいて、よくいう言い方かもしれませんが、人間同士の化学反応ですね。それで1人じゃ絶対できないことができるようになるっていう、そんなイメージでいいのかなと思います。
君たちの生物科学部では、この人はこれが得意みたいなのってあります?
須藤
高原さんは、やっぱり病気とかのことにすごい詳しいですね。あとはきょう来てないんですけど、野口くんっていう人が、すごい昆虫に詳しくて。
西坂
昆虫オタク、いいねえ。やっぱり病気のことでもいいし、実験技術のことでもいいですし、特別何かを持っているっていうのはものすごく、高校の生物部っていう小さな団体でさえ、私はすごく大事なことだと思います。それがやがて大学の研究室になり、あるいは学科になり、あるいは行き着くところは世界かもしれないですけどね。そして「これだけは負けないぞ」って思っている人たちが、またさらにそれよりさらにすごい人に出会ったりして。そこで、しのぎを削って、また次に上がるっていうような、なんかそんなイメージを持ってますかね。
高原
先生の研究の話に戻ってしまうんですけど、実は以前、先生の話を読んだことがあって、そこにタンパク質の設計図が分かるみたいな話が書いてあったんです。それが分かることによって、例えば医療とか私たちの生活が変化するっていうことはあるんですか。
西坂
前提として、われわれの体の部品はタンパク質だっていうのは、習ってることだと思うんだけど、本当にまだ何も分かってないんですよね。タンパク質がどのように折りたたまれてできているのかの予想さえできません。 ヒトゲノムプロジェクトっていうのがちょっと前にあって、人間の体の中の遺伝子が全部明らかになったんですよね。設計図はあるわけだ。だから、その設計図があるんだったら、もういいじゃんって普通は思いますよね。でも、実際には設計図を今、人間は渡されただけで、そこからタンパク質を組み立てることって、どんな形になるかは予想することもできなくて。ましてや、それが何の役に立つかさえも、まだまだ分からない状況なんですね。

インターミッション

ここで対談をちょっと休憩して、実験が行われている研究室を見学した。ここでは、助教の中根先生や大学院生の岩田誠司さんの案内のもと、多種多様な微生物を育てるためのさまざまな培養装置のほか、実際に顕微鏡で観察。
生徒自身の研究課題である微生物の探索・収集の方法についての質問など、活発に議論が行われた。

磁性細菌が磁石によって動く様子を観察

実際に磁石を動かして観察をする生徒たち

培養装置の前で。そこで培養されている微生物の説明を受けた

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