公益財団法人テルモ生命科学振興財団

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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第2回
顕微鏡の専門家が
分子モーターから紐解く生物物理学

第5章 責任を持ちながら好き勝手に研究する

長野
先ほど『Nature』に学生の頃に論文が載ったというお話をうかがって、ちょっと世界が違うなと思ってしまいました。長年やっている研究者とかが、『Nature』に載ってすごく喜ぶみたいな存在が『Nature』じゃないですか。そこに学生の論文が載るというのは、本当にすごいと思うんですけど、世界的に驚くような研究だったんですか?
西坂
誰でも分かる研究をやったんですよ、私。学生で、あんまり世の中のことが分かっていなかったので、自分が猛勉強しないと分からないような研究したって勝負できないと思ったんですね。確かに、普通『Nature』っていうのは、ものすごくたくさん勉強して、いろんな実験をした人しか行けない世界なんだけど、一つだけ私の分野の宣伝をすると、生物物理って、そうでもないんですよ。本当にいろんなことができるんです。
というのは、何か仮説を立てて、よしやってみようって言って次の日に大発見があるっていうことは、生物だけでは駄目で、物理だけでも駄目ですが、生物物理って割とあるんです。本当に猛勉強しなきゃいけないんじゃなくて、ちょっとずるいところをねらいました。
日向
具体的にはどんな研究をしたんですか?
西坂
筋肉の部品になっているアクチンという、螺旋の紐のようなタンパク質があります。そして、この上で動くミオシンというタンパク質がある。それまでは、ミオシンがアクチンの上をまっすぐ動いているのか、螺旋に沿ってぐるっと回りながら動いているのか、分かっていなかったんですね。私は、アクチンの端っことミオシンをそれぞれガラスに固定して、それでアクチンとミオシンを動かしました。もしまっすぐ動くなら、アクチンの紐がグニャって曲がるはず。もし回りながら動くなら、アクチンの紐はくるくる巻くように曲がるはずですね。これを顕微鏡で観察したら、『Nature』に載っちゃいました。
こういうふうに工夫次第で素人でも楽しめる学問分野ってのは結構あって。そういうところを見つけると、面白いかもしれません。そんなこと言ってると、今お世話になっている先生に怒られるかもしれないですけど。生物物理は割と、そういうところはあります。ありましたし、今でもあります。

ガラスに固定したミオシン上をアクチンが滑走するビデオ

須藤
思いつき次第では、研究がどんどん面白い研究に変わっていくっていう、そんな感じですか。
西坂
もちろん、数はすごく積みます。片っ端からやると、何か当たりますね。それが運よく当たって、でもここまで当たるのは珍しいかと思うんですけれども。この前、うちの学生さんが、「育志賞」っていうのを取りましたね。彼も本当に自由に好き勝手なことを、やっぱり朝から晩までいろいろ工夫してやっていましたね。私が想像しないような実験なんかを勝手にやったりして。それで面白い結果を出していました。そうか、君たちの場合は、今はまだ勝手にやったら怒られますよね。「誰だ、この試薬使ったのとか」って。
長野
めっちゃ怒られるんですよ。先生に絶対怒られる。
須藤
うちは、そういうところは徹底しているから。
西坂
もちろん先生にしか教えてもらえないこともいっぱいありますけどね。いつかは絶対自由にやれるといいけど、でもやっぱり自由にやるのは、実は結構怖くて。失敗したことも、自分の責任ですからね。言われたとおりにやっているのが楽な時期もあるんですけど。やっぱり本当に好き勝手にやれるといいです。何かそういう考え、心当たりある?
須藤
うーん、やっぱり自分で考えるのは大変。
西坂
多分ここに皆さん来ているくらいだから、もしかしたら将来、研究を続けたいとか、学部生よりは修士までとかいうようなことを考えてる人が多いと思うけど、大学の学部生までは言われたとおりやれば良いと、よくいわれますね。でも修士以降は、言われたとおりやってようやく0点、そこから加点。そういうふうにいつかなりますから、そこからが本当に面白いと思います。今、実験自体が面白いっていうのは、すごく大事なことだと思います。自分がやったことで、うまくいかねえな、うまくいかねえなって続けて、パッと突き抜けたときは、もう最高ですね。

「パッと突き抜けたときは最高ですね」

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