中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第7回
植物は血縁を見分ける!?
自他識別能力の農業への応用

第4章 理学と農学の間で新しいことを見つけ出す

深野
私が高校生の頃は、学校に皆さんが受けているような課外授業や研究ができるプログラムはありませんでしたね。勉強は嫌いではなかったのですが、受験勉強は好きではなかったので、「早く大学に行って自分が好きなことを学びたいな」と思っている生徒でした。

「大学で自由に研究できることが楽しみでした。」

一同
深野
そのときは、大学に入ったら生き物の研究をしたいな程度で、それ以上具体的には考えていませんでした。ですが、高校の図書館でコンラート・ローレンツ博士の『ソロモンの指輪』という本と出会ったことが、今のキャリアを歩むきっかけのひとつになりました。彼は刷り込み*などの発見でノーベル賞を受賞した研究者なのですが、野山を巡って動物を観察してパターンを見つける研究をしていて、かっこいいなと感じました。彼の研究は今でいうと生態学や動物行動学という分野だったので、そういった分野が学べる学科を探して大学へ進学しました。
*刷り込みとは、例えばアヒルなどが卵から孵り最初に見た動くものを親だと認識するような行動のこと。
深野
大学は東京農工大学に進学し、生態学の研究をしました。学部1年生の頃から研究室を訪ねて、「研究したいんですけど手伝うことないですか」とお願いをして、実験の手伝いをさせてもらっていました。そのおかげで、現在の自分の研究とは関連が少ない、蝶やイルカの研究なども見せてもらい、幅広い知識を実地で身につけることができたんです。皆さんと話していて思ったのですが、佐藤さんと田村さんは、中学生の頃にミドリムシの形態変化の研究をしたと言っていましたね。
佐藤
はい。
田村
はい。
深野
ミドリムシの形態変化の研究は、おそらく基礎的な、純粋に科学として新しい発見を生むことを目的としたものでしょう。一方で今行っている、ミドリムシを用いた植物の成長促進の研究は少し応用を意識した、農業など何かの役に立つことを考えた研究ではないかと思います。対象は同じミドリムシですが、2つの研究での考え方はそれぞれ違う。
科学の世界では基礎科学と応用科学という分け方をします。私も高校生の頃は知らなかったことですが、大学の学部の中でも例えば、基礎科学は主に理学部で、応用科学は植物系の研究に関することは主に農学部で行われていることが多いです。そういう学部ごとの研究スタイルの違いは、皆さん知っていましたか?
生徒一同
首を振る

自身の研究スタイルを語る深野先生

深野
分かりやすいように大まかに分類してみると、役に立つことにつながる学問を勉強しようと思えば、例えば農学部や薬学部、医学部が当てはまります。一方で理学部は、分からないことを調べて、人類の知識を増やしたいと考える人たちが多い印象です。人によってどちらが合うかは違うので、皆さんも進路を考えるときに研究スタイルの違いから進学する学部を考えてみるといいかもしれません。
私は農学と理学と、両方の道を行ったり来たりして研究を行ってきました。研究を通してそれぞれの考え方を知る中で気づいたことは、同じ現象を扱っていても、農学と理学の間でお互いの知識が共有されていないことがあるということです。私が研究を進める上で一番のモチベーションは、「新しいことを見つけたい」ということ。ですが、基礎科学である理学と応用科学である農学の間に橋をかけることで、学問としても新しく、また役に立つこともできる研究のアイデアを見つけようと思っています。