中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第7回
植物は血縁を見分ける!?
自他識別能力の農業への応用

第5章 血縁同士が集まればキクイモの収量アップにつながる!?

深野
私が今行っている研究の一つを紹介します。植物って動けないですよね。私たち動物は、都合の悪い環境だったら移動して逃げることができますが、それと比べるととても厳しい生き方です。例えば、隣り合っている草花たちは光や栄養を巡って互いにものすごい喧嘩をしており、その中でおそらく「植物が自分の血縁、親兄弟や親戚と他人を識別する」という能力があるはずなんです。進化的には、血縁を見分けて仲良くし、他人とは戦う方が、自分とつながりの深い子孫を残しやすいはずですから。
ですが、これまで植物にそのような複雑な情報を見分ける能力があるとは思われていなかったため、十分な研究が行われていませんでした。そこで私は、樹木などに巻き付いて育つ、つる植物に着目して研究を進めました。その結果、彼らは血縁の個体には巻き付きにくく、争う頻度が低いことを確かめました。

つる植物のヤブガラシは地下茎や茎でつながった自株に対しては巻き付きにくく、他株には巻き付きやすい。ただし、切断して別の鉢 で栽培した自株に対しては、他株と同じように巻き付くという興味深い結果も得られた。
※図版はプレスリリースより
→詳しい内容はプレスリリースを見てみよう!

深野
今は東大の農場にいるので、この環境と立場を活かした研究をしたいと考えました。もし植物が隣の血縁を認識して競争の仕方を変えているとすると、その性質を農業に応用できないかと思ったのです。そこで、キクイモ*という植物を使って研究しました。
*キクイモはキク科ヒマワリ属の多年草。キクに似た花をつけ、10月以降に地下茎がふくらみ、塊茎(イモ)ができることから名前がついた。日本では食用での利用や、加工したものが健康食品として販売されている。
田村
なぜイモを研究材料にしたのですか?
深野
イモを育てるときは、大きな親イモを割って、苗を作ります。農家の人は、どの親イモから割ったものかを気にせずに植えています。ですが、もし植物が血縁を認識する仕組みを持っているならば、同じ親イモから割った苗を近くに植えた方が、無駄な競争を避けられて、収穫量を上げられるんじゃないかと考えたのです。つる植物の研究と同じ考え方で、とてもシンプルなアイデアだけれど、誰も確かめていなかった応用科学側の研究です。ただし、現在一般的に栽培されているジャガイモなどは、そのほとんどの個体がクローン、つまり血縁なので他人を見つけることがとても難しいのです。そこで今回の研究ではあまり流通していないキクイモを研究対象としました。

「シンプルなアイデアをどんな実験系に落とし込むか、知恵を絞りました」と深野先生

深野
キクイモをランダムに植えたときと、同じ親イモ由来の苗を固めて栽培したときを比較してみました。競争が激しくなると、より早く資源をとるためにイモを付ける代わりに、根を大きく長く伸ばすだろうと予想されます。まずは鉢植えでペアの組み合わせを変えて実験してみると、確かにキクイモは自分と他人を見分けていることが分かりました(1. 鉢でペア栽培)。

キクイモが自他識別の能力を持つか調べるため、まず鉢植えでペアを変えて実験を行った

深野
そこで次は圃場を使ってより大きな規模で実験をしました。単独で栽培したとき、隣に他人がいたとき、同じ種イモ由来のものが隣にいるときで、どう変化するかを調べました(2. 圃場でペア栽培)。その結果、隣に他人がいると、イモの収量がすごく下がり、根の量が増えたんです。つまり、隣の個体が血縁だと、栄養を根の成長のために使うより、イモを作ることに使います。一方、隣が他人だと、お互いが競い合って根を成長させるために栄養を使うため、イモを作るための栄養が少なくなるのです。最後に、一定区画の中に2つの親株から取ったものを、それぞれまとめて植えたときと、2種類を交互に植えたときで比べました(3. 圃場で6株栽培)。すると、使っているイモの種類は同じはずで、植え方を変えただけなのに、まとめて植えた自株集約栽培でイモの収穫量が増える傾向が見られたんです。

圃場を使っての自他識別の実験
※プレスリリースの図版より抜粋

深野
結果データは、先ほどの皆さんの研究結果と同じ箱ひげ図を使っていますよ。

栽培実験(3. 圃場で6株栽培)でのキクイモ収穫量の結果
血縁同士のキクイモと一箇所にまとめて育てた自株集約栽培(右)のほうが、イモの収穫量が多い傾向にあることが分かった。
※図版はプレスリリースより

一同
本当だ。

研究結果をのぞき込む生徒たち