中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」

第7回
植物は血縁を見分ける!?
自他識別能力の農業への応用

第7章 「学びたい」気持ちを蓄えて、研究と出会おう

今村
深野先生は植物だけでなく動物の研究もしていると聞きました。
深野
はい、動物園に就職した研究室の先輩との雑談がきっかけになって、動物の性比に関する研究をしています。
お母さんがオスを産むのか、あるいはメスを産むのかはランダムに決まるのではなくて、周囲の環境に応じて偏りが出るだろうという仮説があります。 例えば一夫多妻の種の場合、お母さんは自分の体調に応じてオスとメスを産み分けた方がいいんですね。自分の体調が良くて、今産んだら質の良い子どもができるだろうというときは、息子、つまりオスを産んだ方がいいと考えられます。良いオスは多数のメスと子どもを作れるので、次世代でより繁殖できるはず、というわけです。逆に、お母さんの体調が良くないときは、メスを産んだ方がいいということになります。どんなメスでも、子供を産む数にオスほど差がないからです。

Trivers & Willard仮説ではお母さんの体調が良いときは、オスを産みやすいはずだと提唱されている。

深野
こうした性比の理論仮説を検証したいと考えたときに、野生動物だと難しいけれど、動物園であればお父さんが誰か、記録に残ります。そこで、お父さんやお母さんの体調によって子供の性比がどうなるかを調べたいと考えて、スタッフの方と話してみました。そうすると、性比は動物の数の維持管理に影響するので、動物園にとって非常に大事なことであることが分かってきました。そこで、今は日本中の動物園に戦前から記録されている45種の哺乳類・鳥類を対象に2-3万個体の血統登録書を使って、親の状態が子供の性別にどのように影響しているのかを解析しています。
私のように基礎生物学や進化生物学に興味ある研究者は、性比の理論のことはよく知っているけれど、動物園の中で性比に関する課題があることを知っている人は少ない。一方で、動物園の方は、理論は知らないけれど、現場の課題を目の当たりにしている。私は科学の理論と現場の課題をつなぐことで、面白い研究ができると思っているのです。
佐藤
新しいテーマを生み出すにはどうすればよいでしょうか?
深野
大学院生の頃に所属していた理学系の研究室では、さまざまなトピックスの勉強会を行っていたので、私はそこで自分の研究に役立つ・役立たないは関係なく、多くの知識に触れました。性比の話も、そのときに勉強していました。そうして自分の中に知識の塊がある状態で動物園に就職した先輩と会話し、「性比の理論が使えるかもしれない」という着想が湧いたのだと思います。すぐに役立つかどうか分からなくても、知識を蓄えておくことが大切なのだと思います。
田村
最近大人の人と話すと、「自分が高校生の頃は、自分が今こうなるとは思っていなかった」という話をよく聞きます。深野先生は高校生の頃に考えていたことと、現在で「違うな」と感じることはありますか?
深野
私の場合は理想的で、当時やりたいと考えていたことを仕事にできています。むしろ、想像していた以上かもしれませんね。

今、高校の時に描いた理想的な働き方ができています。

田村
私は、自分自身が将来どうするか、何を学んでいくかということをあまり考えられていなくて...
深野
大学は自由に選択ができる場所です。これは私の考えですが、入学する大学がどこかはあまり重要ではなくて、入学後にいくらでも学びたいことがあれば学べます。例えば入学後に、違う大学にいる研究者が行っていることを学びたくなったら、教わりにいけるのです。大学の先生にとっては、自分の研究に興味を持ってくれる学生が来てくれることはとても嬉しいので、研究のことをいくらでも教えてくれますよ。皆さんには受験勉強のことで悩むよりも、大学に入ったときに「勉強したい!」という気持ちで自由に動き回れるように、高校時代にいろいろなものを見て、体験しながら、その力を蓄えておいてほしいと思います。

研究室訪問を終えて

今回深野先生との対談という貴重な機会を設けていただき、とても有意義な経験となりました。研究の話だけでなく深野先生の学生時代の話もしていただいたので、対談の中で学べたことを活かしていきたいと思います。ありがとうございました。
今村 杏瑚さん

私たちは普段屋内で栽培実験を行っているので、深野先生の屋外で行う栽培実験の話は興味深かったです。また、先生のデータの見せ方やその研究についての説明が分かりやすく勉強になりました。貴重な体験をありがとうございました。
佐藤 美結さん

今回の訪問は私達の研究内容を聞いていただいたり、先生の研究や施設を丁寧に説明していただいたりと普段では体験できないような貴重な経験でした。先生の研究内容からたくさんの生物に関する新たな知識を蓄えることができ、私達の研究に応用することができそうな知識が多く面白かったです。実際の畑で研究を行うことができる環境は素晴らしいな、羨ましいなと感じました。
田村 ニナさん

研究分野が違えば世界が異なるといいますが、実験活動を行うフィールドの大きさの違いに驚かされました。また類似した研究内容でも、目指すゴールが異なるとアプローチの手法も変化し、これらを組み合わせることにより新しい研究が創造できる、という深野先生の考え方にとても共感いたしました。
教諭:天貝 啓太先生

( 写真:常盤 治 / 取材・構成 :株式会社リバネス 井上 剛史 )