中高校生が第一線の研究者を訪問
「これから研究の話をしよう」
第26回
副作用のない薬を作りたい!
その思いを胸に、核酸医薬開発の最前線を行く
第2章 実験室にて
山吉先生のお話を聞いた後に訪れた実験室では「アガロースゲル電気泳動」実験を模擬体験し、培養している「がん細胞」を顕微鏡で観察しました。生徒の皆さんに分かりやすく説明してくださったのは、外山さんです。
2-1 「アガロースゲル電気泳動」実験を模擬体験
◾️「アガロースゲル電気泳動」の概要
- 外山
- これから行う「アガロースゲル電気泳動」実験は何のために行うのか? 山吉先生のお話にもあったように核酸は目に見えないので、それがきちんと合成できているかどうか分かりません。そこで、この電気泳動装置を使ってDNAやRNAを分子サイズごとに分離したり、合成のでき具合を分析します。ただし、今回は模擬体験なので、実際のサンプルは使いません。

体験前に資料を見ながら説明を受ける2人

- DNAやRNAのリン酸基はー(マイナス)の電荷を持っています。そのリン酸基がつながった核酸は、全体としてマイナスの電荷を帯びているので、電気を流すと+(プラス)側に引き寄せられる。核酸がプラス極に流れるという性質を利用したのが、電気泳動です。

- この実験で使うアガロースは、寒天やところてんの素・テングサの成分を抽出したもので、網目構造を持っています。マイナスの電荷を帯びた核酸がプラス極に流れる時、大きい分子はアガロースの網目に引っかかってあまり進まないけれど、小さいものは網目を通り抜けて遠くまで進む。このように、アガロースには分子ふるい効果があります。

- 調べたい分子によって使うゲルは異なりますが、アガロースゲルは大きめの分子を分ける際によく使われます。手袋をして軽く触ってみてください。ゼリーのようにプルンプルンしているでしょう?

◾️手順説明と模擬体験
- 外山
- じゃあ、やってみましょう。まず電気泳動装置の泳動槽にバッファーを入れます。バッファーとは、pHを調整したり電気が流れやすくなるなど、ゲルの中に核酸を移動させやすくするための液体。ただし、今回使うのはただの水です。
今朝作ったゲルですが、横から見るとコーム(くし)でつけた穴が開いています。ここにサンプル、要はDNAやRNAを入れます。

- 今日は見やすくするため、ローディングバッファー※で紫色に染めたものを使います。水より比重が重いので、穴の中で拡散されず留まりやすくなります。
※ローディングバッファー:DNAやRNA、タンパク質の電気泳動を行う際、サンプルをゲルの穴(ウェル)に沈めやすくしたり、泳動の進行度を追跡したりするための混合試薬。

- 次に、液体を精密に計量・分注する器具「マイクロピペット」を使い、溶液を吸い上げてゲルの穴に入れます。

マイクロピペットの使い方を伝授された2人が、実際にチャレンジ。溶液を入れたゲルを横から見ると、きちんと下に沈んでおり、「OK! 上手です」とお墨付きをいただきました。
実際にはこの後、電気を流して泳動の様子を観察します。
マイクロピペットを1回押し、溶液を吸い上げる
もう1回押して、ゲルの穴に排出
同様に荻原さんもトライ
2人ともゲルの穴に溶液をきちんと入れられた
◾️結果の確認
- 外山
- 今日は、染料を混ぜただけで蛍光色素は入れていませんが、定量化したり形態的に判断する時は、蛍光染色という方法を用います。
- 蛍光測定した結果、どのような画像が見られるのか? すでに撮影されたものがあるので見てみましょう。
下がプラス極なので、マイナスの電荷を帯びた分子は下に流れていく。ここで、おさらいです。上と下にある分子では、どちらの方が分子サイズが大きいですか?

- 生徒
- 上です。
- 外山
- その通り。上の方が移動度が小さいので、分子サイズが大きい。

- 画面左側に表示されているレーンをラダーバンドといいます。これは売られている蛍光試薬なので、あらかじめ分子量が決まっています。しかし、右側のサンプルは、自分が入れたものだから実際の分子量が分からない。そんな時、左側と比較すれば、だいたいどのぐらいの大きさなのかを決めることができるというわけです。

2-2 培養した「がん細胞」を観察
次に体験したのは、実験室内で培養しているさまざまな「がん細胞」の顕微鏡観察です。
◾️がん細胞の培養と観察
- 外山
- このインキュベーターで、がん細胞を培養しています。細胞を扱う時はコンタミネーション※を防ぐことが重要で、エタノールで消毒したり手袋をします。
※コンタミネーション(Contamination):本来含まれるべきではない物質(異物、微生物、アレルゲン、他の原料など)が混入・汚染する現象のこと。

- これは乳がん細胞ですが、あまり成長していない状態。成長すると、バラバラの粒がくっついて大きくなります。
- 荻原
- 一番古いのは何日前の細胞ですか?
- 外山
- 細胞の種類によって成長スピードが全然違うので、一概に言えませんね。1週間でやっと成長するものもあれば、毎日、培地※を交換しないと栄養不足になって成長できないものもあります。
※培地(Medium):微生物や細胞、組織を人工的に生育させるための炭素源、窒素源、ビタミンなどの栄養素を含んだ液体または固形物質。
- こちらを見てください。
- 荻原
- うわっ! 粒々がくっついています。

- 外山
- 隙間なく合体しているような状態ですね。
- 新井
- おおっ、さっきはスカスカだったのに! あと、少し形が違うような……。

- 外山
- そう、これは最初に見たのとは種類が違います。細胞種によって形はある程度決まっているので、それを逸脱するような形だったり、違う増え方をしていたら、生育方法が正しいのか確かめる必要があります。
◾️培養したがん細胞から分かること
- 荻原
- 培養したがん細胞はどう使うのですか?
- 外山
- 増えたら、細胞実験に使うという流れになります。マウスなどの生体内に移植するインビボ※という動物実験や、組織・細胞を用いるインビトロ※という実験があります。
インビトロで使う96ウェルプレートには、96個の穴があり、そこに細胞を1個ずつ播(ま)いていきます(播種:はしゅ)。そして、薬剤を投入。例えば一番左のレーンには薬剤A、次のレーンには薬剤Bというように条件を変え、どの薬が効くかレーンごとに見ていきます。
※インビボ(in vivo):マウスやラットなどの生きた動物個体に直接薬物や物質を投与し、その反応や効果、安全性を調べる実験手法。組織・細胞を用いるインビトロ(in vitro)実験と相互補完的な関係にある。
※インビトロ(in vitro):試験管、ペトリ皿、培養器など人工的に管理された環境下で、細胞や組織、生体分子を用いて行う実験や検査。


96ウェルプレート
- 荻原
- 別々の細胞、例えば乳がんと皮膚がんの細胞を一緒に培養したら、どうなりますか?
- 外山
- どちらかが邪魔をして、片方の生育が下がると考えられます。この研究室では行っていませんが、薬剤によってはAとB両方の細胞に効くことを証明するために共培養※という実験方法を採ることもあります。
※共培養(Co-culture):2種類以上の異なる細胞や組織を同一環境下で同時に育てる技術。
- 新井
- がんって転移しますよね。そういう時、細胞の形も変わるのですか?
- 外山
- 変わる可能性もあります。基本的に、がんは遺伝子の病気です。例えば乳がんにもいろいろなタイプがあり、細胞レベルで見ると、乳房に胃がんと同じ分子が発現していることもあります。
変異を繰り返し転移先で新たな遺伝子が発現したり、途中で予期せぬ変異を起こす可能性があるので、しっかり経過観察することが大切です。

- 新井
- がん細胞が変異してしまったら、薬が効かなくなるのですか。
- 外山
- その通りです。山吉先生の講義にあったように、今、主流になっている分子標的薬は1つのタンパク質、1つの遺伝子を対象にしているものが多い。最初は効いていたけれど、途中から効かなくなったというのは、まさに遺伝子が変異した可能性があるということです。
- 荻原
- 向こうが勝手に変わっていく?
- 外山
- そう。それに対応するために、いろいろな遺伝子を標的とした薬を使わざるを得なくなります。ただ、そうすると今度は副作用の問題が出てくるので、なかなか難しい。
実験・観察についての質問は、残念ながら、ここでタイムオーバー。講義を受けた部屋に戻り、さらに質疑応答を続けました。