この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」第10回 海上自衛隊から細胞老化研究に取り組む異色の生命科学者 財団法人癌研究会 癌研究所がん生物部部長 原 英二 先生

船酔いで海上自衛隊を退職

───修士課程を卒業されてからどうされたのですか。

どうせなら若い時にしかできないことをしたいと考え、小さい頃から海が好きだったこともあって船乗りになりたいと思ったんです。でももう24歳になっていて、それから商船大学などに行くこともできない。そこで唯一残された手段が、海上自衛隊の幹部候補生学校でした。
そこは大学院の修士課程を卒業した人も受け入れるんです。ずっと海上自衛隊にいるかどうかは別にして、今しかできないことをやってみようと思い入隊しました。

───海上自衛隊とは、またずいぶん大胆な方向転換ですね。自衛隊ではどんなことをしていたんですか。

自衛官として必要な知識と体力を身につけるとともに、幹部自衛官として部下を率いる統率力を養ったり、実際に船を動かさなければならないので、操船技術、航海技術、通信技術や国際関係法など、実にいろいろなことを勉強しましたよ。遠泳などもあり、1日に15kmくらい泳ぎましたね。でも、まあ、楽しかったですよ。気のいい仲間が大勢いたし、今でも当時の仲間や上司とは連絡をとりあってますよ。

海上自衛官時代

海上自衛官時代、航空自衛隊の幹部候補生との交流会の様子
(前から2列目左から3番目で、白い制服を着ているのが先生)

───それなのになんで海上自衛隊を辞められたんでしょう。

実は、私、外洋に出て航海した時に、船酔いすることに気づいたんです(笑)。それまでは湖の遊覧船くらいしか乗ったことが無かったので分からなかったのですが、アメリカ海軍の巡洋艦に乗り、初めて太平洋の大海原を航海した時にとても気持ち悪くなり、自分が船酔いがひどいことに気づいたんです。それは致命的でしたね。指揮官になって指揮をとる時に船酔いしていたのでは、仕事になりませんから(笑)。それと、やはり、分子生物学の研究を続けたいという思いも捨てきれなかったですね。

───海上自衛隊を辞めてからまた研究生活に戻るわけですね。

ええ、研究生活を続けるとなると、小田先生を頼るしかありません。でも先生は寄り道した私を温かく迎え入れてくれて、大学院博士課程に進学してしっかり研究しなさいと言われました。とても有り難かったので小田先生の期待に応えるためにも精一杯研究しようと決心したんです。
そこで取りかかったのが、なぜ細胞老化が起こるのかをはっきりさせるため、細胞老化を起こす遺伝子を探そうということでした。そのためには、細胞老化が起こった時に働くようになる(発現レベルが高くなる)遺伝子を探せばいいわけですよね。しかし、あの手、この手で遺伝子ハンティングを3年間やったけれど、とれなかったんです。
それでもあきらめるのが嫌だったから、大学院修了後も同じテーマで研究できるアメリカ・バークレイにあるカリフォルニア大学(University of California, Berkeley)で博士研究員(ポスドク)として研究を始めました。しかしそこでも細胞老化誘導遺伝子は見つからなかったんです。

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