この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」第10回 海上自衛隊から細胞老化研究に取り組む異色の生命科学者 財団法人癌研究会 癌研究所がん生物部部長 原 英二 先生

わくわくした気持ちや感動を大切に、夢を持ち続けてほしい

───その後日本に腰を落ち着けて研究を続けてこられたわけですね。日本ではどんな研究を?

徳島大学のゲノム機能研究センター(現:疾患ゲノム研究センター)で、やはり細胞老化を誘導するp16遺伝子の研究を続けました。ただ、体外で培養した細胞は体内の環境とは違い、強い酸化ストレスにさらされているため、細胞老化の進行が早まってしまうなどの問題があります。このため従来の培養細胞を用いた方法での研究には限界を感じていました。そこで私はマウスを使って、動物のからだの中でどのようにp16遺伝子が働いて細胞老化を起こしそれが個体の老化やがん抑制に関係しているのかを解析することにしたんです。

───具体的にはどんな方法を使ったのでしょう。

特定の分子が、いつ、どこで、どの分子と関連して機能しているのかを見えるようにする技術のことをバイオイメージングと言います。p16遺伝子は細胞老化が起きている時に発現が高くなるので、そのことを目印にすれば、細胞老化が体の中のどこで起きているかが分かるわけです。
クラゲから発見された蛍光タンパク質を使う方法は、2008年に下村脩教授がノーベル賞を取ったので有名ですが、私たちはマウスのからだの深部から発する微弱なシグナルも捉えたかったので、蛍光よりもっと感度が高いホタルの発光酵素を使った発光シグナルを利用することにしました。これを使って、p16遺伝子や同じく細胞老化の誘導に関与するp21遺伝子などの発現をマウスの生体内でリアルタイムで解析することで、老化とがんの関係をさらに解明できると期待しています。

老化イメージング

バイオイメージングにより、マウスのからだでp16遺伝子の発現が顕著に上昇する様子が観察された

───ホタルの光を使うことを思いついたのは?

徳島大学に赴任した直後はイギリスの研究所と徳島大学を頻繁に往復していました。関西空港から徳島まで高速バスを使っていましたが、ちょうど夕方でヘッドライトがぴかっと光って目に飛び込んでくる。なんか眩しくて疲れるなと思って記憶に残っていたんです。それで、バイオイメージングシステムをつくるとき、あの光を使ったらどうかと考えついたんです。
現在このシステムを使って生体内での細胞老化がどのように起きているのか、そしてその役割の解明をめざして研究を続けているところです。

───それにしても、高校生のときに本屋で読んだ細胞老化とがんについて、もう20年も研究し続けているのってすごいですね。

まあ、自衛隊に入ったりして寄り道しているので、かえって続いているのかもしれませんね(笑)。

───最後に、生命科学分野の研究者になりたいと考える中高校生にメッセージをいただけますか。

私は高校生のとき細胞老化のことを知ってわくわくしました。そうした感動を忘れずに夢を持ってやってほしいですね。それとあきらめないこと。何事も1~2回失敗しても根気強く続けることが大事だと思うな。それから、がんや老化など疾患に関する研究をするのなら、できれば医学部や歯学部に進学するのが良いのではないかと思います。医学部や歯学部に進学したから絶対臨床医というのではなく、いろいろな方向からのキャリアパスがあることを知ってほしいですね(私の研究室には医学部や歯学部出身の研究員もいます)。そして、研究活動を行うにはコミュニケーション能力も必要です。国語と英語(特に英語)の力をつけておいて損はないですよ。

(2011年2月17日取材)

PAGE TOPへ
ALUSES mail