───将来、何になりたいと思っていたんでしょう。
小学校の卒業文集に「将来なりたいのは科学者」って書いていたくらいですから、研究者になりたいと考えていました。SF小説ばかり読んでいた影響だと思います。SFに出てくるミュータント(突然変異体)などにすごい興味があって、頭が二つあっても生きられる生物ってすごいなとか。普通は科学者になりたかったら猛勉強が必要なんだけど、勉強をしていないものだから、勉強しないと科学者になれないということすら分からなかったんですよ(笑)。
───中学や高校に進学してからは、少しは勉強するようになった?
中学3年生になってからは、勉強しなければと思うようになったんですが、もう手遅れで……(笑)。そのため、レベルの高い高校へは進学できませんでした。高校に入学してからも、科目の好き嫌いが激しくて、数学、生物、化学などの理系は好きでしたが、国語、英語、社会などはまったく勉強する気がしなかった。とくに英語は苦手で、期末試験なんかは0点を取ってましたからね。英語は今でもできないし大嫌いです(笑)。
───大学はどのように志望校を決めたのですか。
英語がだめだからどんな大学にも入れないと思っていたし、先生からもどこの大学も無理だと言われました。でも、どこかないかと探したところ、国立大学なら英語ができなくても入れることに気づいたんです。当時国立大学の入試は共通一次試験で、5科目各200点の1000点満点でした。もし英語が0点でも残りが800点あるわけで、理科と数学はかなりいい点を取れるところまで来ていましたから、国語、社会を少しがんばればなんとかなるだろうと。足切りにさえ引っかからなければ、2次試験は専門科目だけの大学があったんです。2次試験で英語のない大学の農学部を関東地域で探したところ、茨城大学を見つけました。
───農学部で学びたいというのはどんな理由からですか。
小学生のころ、SF小説のミュータントに興味を持った話をしましたよね。その延長線上なんですが、高校生のころかな、バイオテクノロジーという言葉が使われだして、テレビのCMで、ポテトとトマトのハイブリッドで地下にジャガイモ、茎にトマトがなる「ポマト」という植物のことをやっていたんです。バイオテクノロジーや遺伝子組み換えを学ぶには農学部がいいと。ただ、同じ農学部でも、私は植物系ではなく、動物系の畜産学科に入学しました。
───畜産学科では具体的にはどんな研究をしたいと考えていたのですか。
ひとことで言うと動物の核移植の研究をしたかったのです。たとえばおいしい牛の肉をたくさんつくろうと思ったら、そのおいしい牛と同じ遺伝子をもった牛をたくさんつくればいいわけですね。そのためには同じ遺伝子を持った牛の細胞の核を卵子に移植する必要があるわけです。

▲ 大学4年の時、酪農実習で1カ月間北海道の畜産農家に泊まり込みでウシの乳搾りなどをした。
───考えていたような勉強はできたんですか。
いえ、なにしろ20年も前の話ですから、バイオテクノロジーの授業はほとんどなかったんです。私が入ったのは畜産学科なので、家畜の飼料のカロリー分析や、ハム、ソーセージの作り方とかを学びました。研究室では交配によって優良家畜を作り出す育種学の研究をしていました。これらの研究は、最新のバイオテクノロジーの技術によるものではなく、古典的な交配に頼ったもので、期待していた研究ではありませんでした。でも当時まだ日本のどの大学でも、遺伝子導入などの手法を使った本格的なバイオテクノロジー研究は行われていなかったのではないでしょうか。

▲ 東京大学秩父演習林で研修を受けているところ(左から2番目)