この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」第18回 生きた神経細胞の活動を目で耳で体感した感激が忘れられない。独立行政法人理化学研究所 脳科学総合研究センター 行動神経生理学研究チーム チームリーダー 村山 正宜

自分のやりたい研究を求めて

───理化学研究所は、科学界の世界的な頭脳が集まっている日本の誇る研究所です。その研究所に迎えられたいきさつをお聞かせください。

2010年に日本で研究者としてやっていくために就活したところ、助教として迎え入れてくれるという大学が4つほどありました。そのうちの一大学に就職しようと考えていたのですが、同時にチームリーダーを募集していた理研にも応募していたのです。その年の8月に日本で国際生理学会が開かれていて、僕も日本に一時帰国して参加しました。その時たまたま僕が座った席が、理研の脳科学総合研究センターで、世界的な脳科学者として知られる先生の隣の席でした。そこで理研のチームリーダーに応募しているという話をして、ほかの大学にも応募しているので早く結論がほしいと、虫のいいお願いをしました。
その後、スイスの留学先に戻ってから、面接を行うという通知が理研から来ました。それでとんぼ返りで面接を日本で受け、さらにアメリカに飛んでMIT(マサチューセッツ工科大学)に行き、理研の脳科学総合研究センター長の利根川進博士の面談を受けました。利根川博士は「本当に自分の研究をしたかったら、理研に来てみたら」とおっしゃいました。

───それで理研に入られたわけですね。不安などはなかったのですか。

普通、大学の研究者は助教や准教授の頃に、研究予算をとるための文書の書き方、研究のやり方、共同研究の進め方などを学んでいきます。ところが、理研に入るとなると、その準備段階がなく、いきなりすべて自分でやらなければなりません。チームリーダーですから、研究スタッフを集めて彼らの給料をいくらにするかも自分で決めるのです。なかでも重要なのが研究テーマです。これに失敗するとチームのメンバーのキャリアにも影響してしまう。当時また32歳だったので、プレッシャーも大きかったです。でも自分のやりたい研究をチームでやれるのは大きな魅力でした。

研究室のレイアウトなども自分でオーダーする。工事前(左)と完成後

研究室のレイアウトなども自分でオーダーする。工事前(左)と完成後

───いま、理研ではどんな研究を進めていらっしゃいますか。

樹状突起は、多数の細胞からの情報を受け、それらを統合する働きをしています。この樹状突起での情報統合は、記憶の想起や注意などといった脳の高次機能を含めた動物の行動に関連する可能性があります。そこで、こうした脳の高次機能と神経回路メカニズムの相関関係を明らかにしたいと考えています。
たとえばラットの行動実験の結果、動物に意識があるときには、意識のないときよりも14倍も樹状突起の活動量が増えます。このとき、どのようなメカニズムが働いているのか。また、経験や心理状態によって行動がどう変わっていくのかを調べるため、マウスをバーチャルリアリティ空間に置き、行動とそのときの神経活動を記録するなど、工学や化学など他分野の技術も総動員して探求しています。

───最後に中高校生にメッセージをいただけますか。

まず、体と心を鍛えておくこと。研究は集中力のたまもの。体力がないと集中できませんから。それと若い時に、早めに一度挫折を体験すること。僕がサッカー選手になる夢に挫折したように。そこからもう一度、立ち上がることで強くなります。 研究分野でいえば、脳科学はまだわからないことだらけです。世界中の脳科学者がこのわからない分野を相手に研究活動を続けています。どうしたら少しでもこの謎に近づけるか、オリジナリティを追求できる領域がまだまだたくさん残っています。ぜひこのわからないことだらけの世界に飛び込んで研究してほしいですね。

(2012年6月15日取材)

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