この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」

間葉系幹細胞の基礎研究と臨床応用に取り組む

───骨のがんである骨肉腫の研究から、幹細胞や再生医療などの研究を進めるようになったのはなぜでしょう。

帰国後、臨床医として一般の患者さんの診療を行っていましたが、その間も後輩の大学院生と、骨や筋肉のがんである肉腫がなぜできるのか、がんの発生に興味を持ち、肉腫をつくる発がん実験などをしたり、ヒトの細胞を不死化させたらどうなるかといったことを研究していました。
1995年に京都大学生体医療工学研究センターの助教授のポストの話をいただき、同時に医学部附属病院で専門的に骨軟部腫瘍の患者さんの診療に携わることになり、臨床医を続けながら研究を行う道を選びました。その後98年に再生医科学研究所に改組した際に、研究所のミッションとして再生研究が掲げられたことから、間葉系幹細胞を用いた再生研究にトライすることにしたのです。

───間葉系幹細胞について、少しくわしく教えていただけますか。

間葉系幹細胞は骨髄に含まれる、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞などさまざまな細胞に分化する能力をもった幹細胞です。
骨髄の中に骨再生に関係する細胞が含まれているというのは、以前から整形外科医の間では経験的に知られていました。偽関節とよばれる骨折が治りにくくなった病気に骨髄液を注入するとはやく治りますし、骨肉腫や軟骨肉腫などの病気もほとんどの場合、骨髄から生じています。そこで間葉系幹細胞を研究することが再生医療や骨のがんの解明に役立つのではないかと考えたのです。
とはいえ、間葉系幹細胞は非常にミステリアスな存在です。間葉系幹細胞が含まれている骨髄間質細胞というのは、均一な細胞の集団ではなく、分化段階が異なる細胞の集合体で、そこに存在する間葉系幹細胞も一様ではないのですね。このため、細胞表面マーカーなど、特定の”目印”となるものがまだ分かっていませんし、細胞の生物学的特性も明らかになっていません。さまざまな研究者が骨髄からそれぞれの方法で分離した細胞を再生に役立つ幹細胞として異なる名前で発表していますが、それらが同じものなのか親戚なのか、まったく違うものなのかもハッキリしていないのが現状なのです。それにもかかわらず、再生医療として治療効果が期待できそうというので、大きな注目を集めています。もっと基礎的な研究を進めることが重要で、私たちは臨床応用の研究を進めると同時に、基礎研究に力を入れています。

───間葉系幹細胞を使った再生治療として、どんな研究を行っていますか。

骨の病気の一つに骨が壊死していく「骨壊死」という、治すのが大変難しい病気があります。私たちは、2007年に厚生労働省の承認を得て、患者さんから間葉系幹細胞を採取して、それを培養、増殖したものを、人工骨と一緒に壊死した骨に移植する臨床研究を行っています。症例間で成績に差はありますが、広範に骨が再生された例など有望な結果が得られています。

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