この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」第21回 哺乳類の初期発生の謎に、独自のアプローチで迫りたい。基礎生物学研究所 初期発生研究部門 教授 総合研究大学院大学 生命科学研究科 基礎生物学専攻 教授 藤森 俊彦

病院とiPS細胞研究所の架け橋として

───先生は京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の副所長も務めていらっしゃいますが、就任のいきさつをお聞かせください。
山中先生と

山中先生と

2002年に山中伸弥教授が再生医科学研究所に赴任されました。実は山中先生は神戸大学医学部のラグビー部出身で、6年下なので直接試合をしたことはなかったのですが、私の後輩を通じて紹介され、以来親しくさせていただいていました。
2007年に山中先生によってヒトiPS細胞がつくられ、わが国のiPS細胞研究のサポート体制が整えられたことから2008年に京都大学にiPS細胞研究の拠点が立ち上がることになり、山中先生から組織運営を手伝ってほしいという依頼があったのです。間葉系幹細胞の臨床研究で培ったノウハウを活かすことができること、また私自身は整形外科の臨床医でもあるので、治療の現場にいる人間として、京大病院とiPS細胞研究所の間の架け橋になれたらいいなと思っています。

───先生はiPS細胞を使ってどんな研究をなさっているのですか。

iPS細胞を使って薬をつくる研究に取り組んでいます。治すことが難しいいわゆる難治性疾患の患者さんの体細胞からiPS細胞をつくり、それを骨や神経、すい臓などの臓器に分化させ、それぞれの細胞の状態などを見ることで、これまで分からなかった病態の解明ができ、それに対応した新しい薬の開発が期待されています。私の場合は、FOP(進行性骨化性線維異形成症)という、刺激によって筋肉や靭帯などが骨組織に変化して硬化してしまう非常にまれな病気について、骨ができないようにする薬を探すプロジェクトや、CINCA症候群という成長板と呼ばれる部位の軟骨細胞が増えすぎて骨が肥大化する病気の治療薬を探索しています。
患者さんたちはたとえ自分にはすぐに役立たなくとも同じ病気の人を助けてほしいという気持ちで協力してくださる方が多く、本当にありがたく思っています。

───そのほかのプロジェクトとしては。

いまCiRAでは、移植治療などに備えて今後5年間で日本人の30~50%の人の移植治療に対応できる「iPS細胞ストック計画」を立てています。現段階では、iPS細胞をつくるには数カ月も必要で、費用もかなりかかっており、直接生命にかかわることがない膝関節などの治療に結びつけるのは難しいのですが、これが実現すれば、いずれはさまざまな病気に対する治療ができるようになると思います。
それと、iPS細胞を用いたがんの研究を行いたいと考えています。近年、がんが再発するのは幹細胞の性質をもったがん幹細胞が関係しているのではないかという仮説が提唱されていますが、がんと再生というのはかなり接点があるんですよ。

───最後に中高校生へのメッセージをお願いします。

「見る前に跳べ」と伝えたいですね。これはW・H・オーデンという詩人の言葉ですが、何かを始める時に、眺めているよりもまず行動してみようという意味です。自分の進路を考え続けていてもなかなか決められないものです。何かが起きるのを待つのではなく、まず跳んでみようと。
私も、米国に留学するとき、30代の外科医としての腕を磨くための最も大事な時期に、大学院と留学を合わせて7年間も臨床から遠ざかって、果たして臨床医としてやっていけるだろうかと迷ったのですが、とにかく「見る前に跳べ」の精神で日本を飛び立ちました。また基礎研究所のポストを提示されたときも、基礎研究と臨床とで両立できるのかとも考えましたが、サイエンティフィックマインドを持ち続けて臨床に携わることが、基礎研究と臨床と双方にとっていいはずだと、チャレンジしたわけです。
それと、中高校生の頃は、なんでも吸収できる年頃です。それが役に立つかどうかは別にして、さまざまな知識をどん欲に身につけていってほしいですね。

2012年11月25日に開催された大阪マラソン2012で完走。週に3日走っているとのこと。

2012年11月25日に開催された大阪マラソン2012で完走。週に3日走っているとのこと。

(2013年4月30日取材)

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