この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」

新たなバイオイメージング技術を次々に開発

───それから本格的なバイオイメージングの研究に取り組んだわけですね。先生の開発したイメージンング技術は多岐にわたると思いますが、その中のいくつかを、わかりやすく教えていただけますか。

1990年代中ごろからGFPの研究が飛躍的に進んで、蛍光タンパク質を使ったイメージング技術が発達してきました。とはいえ、私がこの技術に携わるようになった1999年はまだまだ発展途上で、蛍光色も限られていましたし、生体分子センサーとしての利用も始まったばかりでした。
宮脇研での私の最初の仕事はGFPの遺伝子を改変してカルシウムイオンが結合すると蛍光特性が変化するものを「つくる」ことでした。子どもの頃のモノづくり魂に火がついたのは言うまでもありません。100を超える遺伝子の構築を行いましよ。その結果、1年半で「Pericam(ペリカム)」と名付けた蛍光カルシウムセンサーを開発することに成功し、論文に発表することができました。さらに、当時としては世界で最も明るい黄色蛍光タンパク質の開発にも成功し、夜空で最も明るく光る金星にちなみ「Venus(ビーナス)」と名付けて論文発表しました。Venusはこれまで世界中の研究者に利用され、たくさんの論文が発表されています。自分が開発したものがさまざまな研究に応用され役に立っているのは本当に研究者冥利につきます。
その他、最も短波長の群青色蛍光を発する「Sirius(シリウス)」やnM(ナノモーラー)という微量のカルシウムを検出できる世界最高感度のカルシウムセンサー「cameleon-Nano(カメレオン-ナノ)」など、「1番」にこだわったモノづくりに取り組んできました。

蛍光タンパク質のカラーバリアントとそれらを用いた生細胞イメージングの例

蛍光タンパク質のカラーバリアントとそれらを用いた生細胞イメージングの例

最近では蛍光タンパク質のみならず、ホタルの発光に代表される生物発光(化学発光)を使ったイメージング技術の研究開発も行っています。というのも、これまでの蛍光タンパク質を使ったイメージングでは、細胞内の蛍光タンパク質を光らせるために、紫外線を照射しなければなりません。しかし長時間イメージングすると紫外線によって細胞がダメージを受けるという問題があったからです。紫外線の照射を必要としない化学発光を用いれば、細胞にやさしい長時間のバイオイメージングが実現するだろうと考えたわけです。
ところが大きな問題が一つありました。それは発光シグナルが非常に微弱だということです。たとえば、マウスのがん細胞を生物発光を使ってイメージングする場合には、毛を剃ったヌードマウスを、暗い中で長時間(分のオーダー)露光撮影しなければならなかったのです。これでは秒のオーダーで起こる生理現象を捉えることはできません。

───それをどのように解決したのですか。

生物発光なら有害な紫外線を当てる必要がないけれど、蛍光発光に比べて輝度(明るさ)が足りない。この課題に対して、光るサンゴの仲間であるウミシイタケから抽出した生物発光タンパク質(RLuc)に蛍光タンパク質Venusをつなぎ合わせ(ハイブリッド化)、前者から後者へ高効率な励起エネルギー移動(FRET)を起こさせることで、10倍以上も明るく光る超高輝度化学発光タンパク質を開発することに成功しました。化学エネルギーで灯をともすランタンのミニチュア版という意味から、「Nano-lantern(ナノ-ランタン)」と名付けました。

ナノランタンの構造と発光スペクトル

ナノランタンの構造と発光スペクトル

───そのNano-lanternを使ったイメージングでは、どんなことができるのですか。

Nano-lanternでマウスの体内のがん組織をマーキングすることで、自由に動き回っているマウスの体内でがん細胞が光っている様子をリアルタイムで観察することができました。スチール写真だけでなく、ビデオ撮影もできるんです。これによって、抗がん剤の評価やがんの転移検査にも役立てることができると思います。
さらにこのNano-lanternのタンパク質を改変し、カルシウムイオンやATPなどを検出できる発光センサータンパク質の開発にも成功しました。今後は神経ネットワークのコントロールや神経活動のモニタリングなど。高次神経活動のメカニズムにも迫ることが可能になっていくと考えています。

Nano-lanternをもとにしたカルシウムセンサーによる細胞内カルシウムイメージング

Nano-lanternをもとにしたカルシウムセンサーによる細胞内カルシウムイメージング

Nano-lanternによるマウス体内に存在する癌組織のリアルタイム可視化

Nano-lanternによるマウス体内に存在する癌組織のリアルタイム可視化

Nano-lanternをもとにしたカルシウムセンサーCaMはカルシウム結合タンパク質。M13はカルシウムと結合したCaMと複合体を形成するペプチド

Nano-lanternをもとにしたカルシウムセンサー
CaMはカルシウム結合タンパク質。M13はカルシウムと結合したCaMと複合体を形成するペプチド

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