この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」

サイエンスに必要なのは人の交流

───先生のホームページには「ぱっぱらぱーになって科学革命を起こしませんか?」という魅力的なキャッチがついています。

ははは、すごい魅力的でしょ?これはアホになれってことなんです。アホになれば教科書に書かれているような常識、前提、法則などを鵜呑みにしないで疑ってみることができる。常識を疑うと、常識のある人からは「アホ」と呼ばれるけれど、真理や新しい概念の発見にもつながるのです。

───研究者に必要な条件は何でしょう?

頭でっかちにならない、あまり賢くならないこと。賢くなろうとすると、戦略を立てることに一生懸命になってしまいがちです。ひどい場合には実験をやる前から結論を出してしまう。それでは見つかるものも見つかりません。つくれるものもつくれません。頭をからっぽにして、考える前に手を動かす、実践することが大切だと思っています。
たとえば、遺伝子をつくる実験があるとしたらとにかく手を動かしてたくさんつくってみる。10個にも満たない数しかトライしていないのに、「結果が出ない」などと言うなってことです。100個、150個と、とにかくつくってみなければ結果など出ないですよ。そんな実験に夢中になれることも必要かもしれません。

私が大切にしているのは、研究の中になんでもいいから一番を含めること。そのためには、流行に乗って誰もがやっていることはやらない、あまり人が注目していないことに挑戦することですね。私の研究分野でもまだまだ「見えていない」「やられていない」ものが山のようにあります。それを見つけ出すのが研究の醍醐味なんです。

実は今、Nano-lanternの遺伝子を組み込んで「光る樹」をつくるプロジェクトが進行しつつあります。その光る樹を街路灯として用いれば、電力を一切必要としないので、電力節減につながります。原子力発電所を完全撤廃できるかもしれません。このようなことを2008年くらいから考えているのですが、「アホか?そんなもん、うまく行きっこない。だいたいそんな植物、光るのに栄養を取られてちゃんと成長しないでしょ。冬に葉を落としてしまったら光らないではないか?光る樹なんかを街中に植えたらたくさん害虫が集まってきて大変になる」等々、始める前からネガティブな意見ばかりです。すごくお金のかかるプロジェクトですが、大型予算は全然当たりません。そうこうするうちにアメリカで同じ発想のプロジェクトが進行し始めました。さすがスティーブ・ジョブズを生んだアメリカ。パッパラパー的発想を受け入れる土壌が備わっています。でも、従来の化学発光タンパク質を用いているので、明るさが不十分らしい。我々にはまだ勝算があるかもしれません。乞うご期待!

このようなパッパラパー的アイデアは一人で考えるよりも、大勢でワイワイ議論しながら考えると出てくることが多いです。そのために、サイエンスには人との交流が重要だと考えています。私は北海道大学にいたとき、「ジンパ」(ジンギスカンパーティ)を部局横断的に毎年開催していました。医学部、薬学部、理学部、電子科学研究所、先端生命研究院などに所属する、150人の先生方・研究者・学生と交流する場をつくりました。大阪大学でも続けています。

部局横断型のジンパは共同研究にもつながります。研究を続けていると、どうしても越えられない壁にぶち当たることがある。こうしたとき、交流の場から新しいアイデアやヒントが生まれるんですね。
サイエンスにとって人の交流がどれほど大切かを知っている私は、電子科学研究所の中にカウンターバー付き、ホワイトボードがあっていろいろディスカッションできる「J’s Bar」もつくってしまいました(笑)。このバーは、今でも研究者の交流の場になっています。いずれ、私は阪大の中に居酒屋をつくろうと思っています(笑)。大学内に居酒屋なんてありえないなんて思っている読者の方、そんな狭量な発想ではオモロイサイエンスはできませんよ。

───最後に中高校生にメッセージを。

このように、私の考え方・生き方はちょっと枠から外れたものかもしれません。座右の銘は「今を生きる」で、高校時代に読んだ森鴎外の「青年」の以下の一節に大きく影響を受けています。

「一体日本人は生きるということを知っているのだろうか。小学校の門を潜ってからというものは、一所懸命にこの学校時代を駆け抜けようとする。その先には生活があると思うのである。 学校というものを離れて職業にあり附くと、その職業を為し遂げてしまおうとする。 その先には生活があると思うのである。そしてその先には生活はないのである。現在は過去と未来との間に劃した一線である。この線の上に生活がなくては、生活はどこにもないのである」(下線は永井先生)

中高校生の皆さんには、将来のことばかりを考えて今をないがしろにせず、人生でたった今しか味わえない中学生活・高校生活を思う存分謳歌してほしいと願っています。

J’s Barで定期的に開催されているアイデアセミナーにて熱弁をふるう柳田敏雄先生(阪大)

J’s Barで定期的に開催されているアイデアセミナーにて熱弁をふるう柳田敏雄先生(阪大)

突然のスコールにもめげず盛り上がるジンパ左で拳を上げているのが永井先生

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突然のスコールにもめげず盛り上がるジンパ
左で拳を上げているのが永井先生

(2014年6月18日取材)

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