この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」

小さなラボで充実した研究生活を送った留学時代

───デューク大学に留学したきっかけをお聞かせください。

大学院時代にソングバードについて研究したことから脳神経の可塑性に興味をもち、もっとこの分野について探究したいと、ポスドクでの留学先を探していました。ソングバードの研究の第一人者であるカリフォルニア工科大学の小西正一先生に相談したところ、デューク大学のリチャード・ムーニー教授を紹介してくださいました。
ムーニー教授は神経生理学の大家で、生きている動物の細胞内記録をとるテクニックを持っていて、魅力的な論文をいくつも発表していました。精緻で鮮やかな論理展開に魅かれたこと、また電気生理学的な手法についても本格的に修得したかったので選びました。

───留学生活はいかがでしたか。

2年間しかいませんでしたが、とても充実した留学生活でしたね。英語には半年で慣れて、研究生活でも多くの収穫があり、ムーニー教授にもかわいがってもらいました。ポスドク仲間もかけがえのない人たちで、今でもおつきあいをしています。
ムーニー教授のラボはポスドクが3、4人、学生が2、3人の小さなラボで、それだけにみんな和気あいあいでやっていました。教授の影響もあり、研究員がみんなすごく一生懸命実験に取り組んでいましたね。夜中までかかる実験が多く、遅いときは午前2時、3時まで及ぶこともしばしばでしたが、楽しかったですよ。

───思い出に残っていることは?

私はかなり適応力があるほうなので、特に戸惑ったりすることはなかったのですが、今思うとけっこういろいろありました。
そうそう、私の乗っている車のライセンスプレート(日本のナンバープレート)が盗まれたことがあるんです。盗った人物が、私の車のライセンスプレートをつけて、なんとガソリンを盗んだんですよ。ガソリンスタンドの人がナンバーを見て調べたら、私の名前が出てきた。「ヨーコ」という名前はビートルズのジョン・レノンの奥さんであるオノヨーコのおかげでアメリカでは有名なんです(笑)。
それで、私のところに電話してきたのですが、その日は研究室でパーティがあってずっと留守電のままだったので、ガソリンスタンドの人は私が誘拐されたものだと思ったらしい(笑)。夜遅く帰って来て留守電を聞いたところ、何かナンバープレートがどうのこうのと言ってるけれど、車を見たらナンバープレートはちゃんとついているし、早口の英語だから分からないのかもしれないと思っていたら警察がやってきた。車についていたのは別人のプレートだったんです! でも警察は簡単に事情を聞いただけですぐに帰ってしまった。
ラボのみんなに「ナンバープレートの指紋も取らないんだから!」って話したら、「そんな犯人なんて捕まりっこない」ってみんなアッサリしたもの。アメリカではそのくらいのことは日常茶飯事だったのでしょう。

───日本食が恋しくなったりはしませんでしたか。

私はそれほど食べ物にこだわるほうではないのですが、アメリカのお米はまずいと思いました。私が住んでいたのはアメリカ南部のノースカロライナ州でしたが、クリスピー・クリーム・ドーナツの発祥の地で、甘ったるいお菓子がたくさん出てくるんです。私は昔から甘いお菓子は大嫌いで最初は敬遠していたんですが、日本に帰るころには、一日に何個ドーナツを食べれば気が済むのかというほど好きになりましたね(笑)。ミーティングでも3つぐらいたて続けに食べたりして、ラボの仲間が「あなたがアメリカ人になってくれてよかった(笑)」

リチャード・ムーニー教授のラボで(右から2人目)。左がムーニー教授

リチャード・ムーニー教授のラボで(右から2人目)。左がムーニー教授

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