この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」

自分なりの研究テーマをとことん考え抜く

───先生が受精や初期発生などに興味を持つようになった理由は?

小学生のころから漠然と、人間はどこから来たのか、自分ではなかったら誰になったのか、将来人間はどうなってしまうのかとか、あれこれ考えていると、夜寝るとき怖くなるんですね(笑)。そんな生命現象や自分について考えていた中学生のころ、NHKで「驚異の小宇宙 人体」というスペシャル番組があり、母親の胎盤の血液を胎児がキャッチする映像に感激したことも深層心理に影響を与えたのかもしれません。
実は、これは余談になるけれど、昨年、やはり同じNHKスペシャルで「人体ミクロの大冒険」という番組がつくられたんです。この番組では受精卵が分化する様子を撮影した映像が流れたのですが、それは後からお話しするライブセルイメージング技術で私たちが撮ったものなんです。
私はこの話が持ち込まれたとき、運命的なものを感じました。そのときスタッフに、かつて私が感激した番組の映像について聞いたんです。どう考えても四半世紀も前に母親の胎盤の血液を胎児がキャッチする映像など撮れるわけがないので、どのようにして撮ったのかって。するとものすごく精巧な模型を使ったというんですね。伝説的なプロデューサーが関わったということですが、そこまでするのかと驚きました。中学生のころに見たリアルな生命についての映像が、私の運命を変えたのかもしれない(笑)。

───ほんの少し前までは模型やCGでしか描けなかった世界が、いま目の前で見ることができる。本当にすごいことですが、先生がライブセルイメージングをテーマに研究されるようになったきっかけは何だったのですか。

修士からドクターコース時代は、まさにわき目もふらず実験に没頭し、馬場先生と論文を立て続けに出して4年で学位をとりました。その後大阪大学の遺伝情報実験センターでポスドクをしていたんですが、そのころから遺伝子を見つけてノックアウトする研究についてちょっと疑問に思うようになっていたんですね。たしかにある遺伝子を働かなくするというのはすごい技術で、その遺伝子が大事だということはわかるけれども、それではたして生命現象の全体像を理解しているといえるのか、わからなくなったんです。もっと生命現象をじっくりと観察することが今の自分には必要なのではないかと感じるようになりました。
そんなとき筑波大学に講師として戻ってこないか、研究テーマを考えて自分で思うようにやってみなさいと馬場先生から声をかけていただきました。そこで、どんな研究テーマを探求すべきか、3か月あまり実験もせずに論文を読みながら考え抜きました。そして、哺乳類の精子と卵子が受精したあと、形態レベルでも分子レベルでも受精卵がドラスティックに変化する時期に、どのような分子メカニズムが生じるのかを解明するために3つのテーマを掲げました。
1つ目が精子が卵子に持ち込むDNA以外のたんぱく質を探す、2つ目が受精してすぐ発現する遺伝子は何か、そして3つ目が初期胚を用いた蛍光ライブセルイメージングシステムの開発の3つです。幸いこのテーマで文科省の「若手任期付研究員支援」プログラムに採用され、4年間で約6000万円の研究費が出ました。
この3つのテーマのうち3つ目の受精前後の卵子や初期胚で分子がどのように活動するかを生きたまま観察する実験システムが、その後の私のメインの研究につながってきたわけです。こうしたテーマをとことん考え抜いたことが、私の研究者としてのターニングポイントだったと思います。

───では、そのまま順調に研究を続けることができたのですか。
研究員時代

研究員時代

そうこうするうち、筑波大での任期切れが近づき、新しい職場を探さなければならなくなった。もう結婚して子どももいたので、ほんと、焦りました。あるとき学会会場で当時理化学研究所にいらした若山照彦博士に声をかけたところ、すぐに「私の研究室で、イメージングの研究開発をやらないか」と誘っていただきました。正直、ほっとしましたね。

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