この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」

初期胚の動きを高分解能の画像で解析

───先生の研究内容について、わかりやすく説明してください。

生き物の細胞の中の様子は、通常、蛍光色素を発色させて観察するのですが、この方法では、レーザーなど高出力な光源を必要とします。しかし、紫外線に近い光源を連続的に当てると蛍光は観察できても細胞内の器官や細胞そのものを破壊してしまいます。これまではそれがイメージングの宿命だと考えられていました。
私は卵子が受精して生命が発生していくときに何が起きているのかを、実際にこの目で見たいと考えました。しかし、従来の蛍光色素によるイメージングの方法では、細胞に大きなダメージを与えてしまうため、同じ細胞を連続的に観察することができないわけで、それではひとつの生命の発生を見ることにはならないわけですね。
私は若山先生と相談して、初期発生の研究をするためには、もっと細胞に優しいイメージング技術が必要であり、その研究をすることにしました。

───それで、具体的にはどんなふうにして細胞に優しいイメージング技術を開発したのですか。

イメージングにあたっては、微小ガラス管を使って蛍光たんぱく質のもととなるmRNAを卵子に導入します。このことを「マイクロインジェクション」というのですが、その導入時期や量が胚発生にどんな影響を与えるか、そして胚に与える影響を最小限にとどめるにはどうすればよいのか実験を積み重ねました。できるだけ鮮明な画像を撮りたいし、1時間に一度画像を撮るのではなくもっと短い時間間隔で撮りたい、つまり画像分解能、時間分解能を高めながら、しかもレーザーなどの光源の照射量を下げ、光毒性を下げるという難しい技術開発が要求されました。顕微鏡の改良だけでなく、培地、プラスチック部材、培養装置、観察条件など、あらゆることを見直し、初期胚ライブセルイメージングに使うシステムをつくりあげました。

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マウスの受精卵の初期発生の動画(46秒)

───このイメージング技術はどんな実用性を持っているのですか。

受精や発生・分化という基礎科学分野に新しい方法論を提供したのはもちろんですが、いま、学生や高校生の見学会でお話ししているのは、生殖医療への応用です。近年、不妊症が増えていて、その原因は高齢化などによって卵子の質に問題があることがわかっています。そこで、このイメージング技術を使って胚を正しく評価することで、その原因の解明につながると思っています。ただイメージングして画像を見るだけでなく、得られた画像をいろいろなプログラムで変換して、数値として評価できるような試みも行っています。目で見てはまったく違いはわかりませんが、画像解析によって細胞の空間における座標位置などをトラッキングすることで、数値でたとえば1%、2%の違いが出てくることがあります。その違いが明らかになれば、質を数%向上させる技術につながる可能性もあるわけですね。

───このほかの研究としてはどんなことをなさっているんですか。

前職である大阪大学微生物病研究所では、遺伝子組換えマウスで有名な岡部勝先生に師事しました。岡部先生は、蛍光たんぱく質GFPを全身の細胞で発現させた「グリーンマウス」を世界で初めて作った方です。それに触発されて、僕らもあるマウスを作りました。
私たちの体は60兆個ともいわれる細胞のすべてに同じ遺伝情報を持っていますが、遺伝子発現が変わることによってさまざまな種類の細胞がつくられていきます。この現象を「エピジェネティクス」と言い、その代表格がDNAの塩基配列の中のシトシンがメチル化されることによって起きます。このDNAのメチル化をマウス個体の全身細胞で生きたまま可視化することに私たちは世界で初めて成功し、米科学誌「Stem Cell Reports」に昨年掲載されました。ちなみに、このマウスを私たちは「メチロー」って名付けたんです(笑)。

DNAのメチル化を可視化したメチローマウスの新生児。励起光を照射してフィルターを介して見ると全身が赤く光る(写真右)

DNAのメチル化を可視化したメチローマウスの新生児。励起光を照射してフィルターを介して見ると全身が赤く光る(写真右)

メチローマウスを用いたライブセルイメージング画像。2細胞期受精卵から胚盤胞期までの約4日間、核内のメチル化DNAの変化を安定して観察できるようになった

メチローマウスを用いたライブセルイメージング画像。2細胞期受精卵から胚盤胞期までの約4日間、核内のメチル化DNAの変化を安定して観察できるようになった

───最後に中高校生へのメッセージがありましたらお聞かせください。

中高校生のころから研究者時代まで、良い先生に巡り合うことができたことは本当に幸せだったと思います。出会いを大切にすることが自分の道を開いていくきっかけになるのではないでしょうか。今は情報があふれていて、いったい自分がどんなことをやりたいか、選択肢が多すぎてなかなか決められない時代になっています。そんなとき、良い先生に出会い、アドバイスをもらって自分の進む道を選択していくことができたらよいですね。

───研究者としてどんな発想を身につけておくとよいのでしょう。

私は「右向け右!」と言われると反射的に左を向いてしまう、悪く言えば天邪鬼で、よく言えば反骨精神を持っていたように思います。ロック魂という言葉の方がしっくりくるかもしれません。結局は先生の言うことを聞いてしまうこともあったのですが(笑)。ただ、研究に関しては相手とちょっと逆の発想をしてみると、新しい発見につながることもある。それと、日々実験をしていると、うまくいかないことがよくあるんです。そうしたときに、すぐにあきらめたり見切りをつけたりしがちです。けれど、失敗したら少しずつでも条件を変えてトライアンドエラーを繰り返すことが大切です。私の場合も、ポスドク時代に顕微鏡をつくっていたときの日々の細かなトライアンドエラーが、いまになって生きていると思いますね。

(2015年6月19日取材)

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