この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」

牛の眼球や肺をすりつぶしていた大学院生活

───大学での生物学はどんなことを勉強したのですか。

私が入学した早稲田大学の教育学部の理学科は、教育学部でありながら1年生の時から実習があるなど、内容は理学部の生物学科と同じでした。ただ、植物系の先生が多く、現在私が研究しているような内容の授業は少なかったですね。
学部生の3年の終わりころは、いちばん自由なことができるゼミに入って、唾液を分泌している顎下腺から出ているタンパク質分解促進分子の効果を分析する研究をしていました。ひたすら酵素反応を試験管で確かめることをやり続けていました。今思えば、論文にはしていなかったけれど、わりあいきれいなデータが取れたように思います。

───すると、その実験がおもしろくなって研究者をめざしたのでしょうか。

初めから大学院に進んで研究者になろうという思いは持っていました。大学受験のころには医者になろうかと考えた時期もあったのですが、もっと基礎的な部分で貢献できる研究者になりたい、生物学の中でも目に見えない事象を解いていくことができる基礎研究をしたいと考えていました。
大学院は学部生のときと同じ研究室で研究生活を送りましたが、研究テーマはがらりと変わり、眼の中の血管がなぜなくなっていくのかを研究しました。眼の血管は発生時には栄養を与える役割をしていますが、生まれてくると血管があってはものを見るためには不都合なので、退縮していきます。そのためには血管新生を抑制する物質があるはずだというので、その物質を単離しようという、いわば”モノトリ”の仕事でした。

───具体的にはどんな研究をしていたのでしょう。

眼には硝子体というゲル状のものがあるのですが、毎週3回くらい品川の屠殺場(とさつじょう)に行き、牛の目玉を30個くらいもらってきて、硝子体をチョキチョキ切って取り出し、すりつぶしてという実験をやっていました。それを3年以上続けていたんです。そうした実験の結果、アスコルビン酸というビタミンCが血管新生を抑制していたことを突き止めました。

───かなりたいへんな作業をしていたのですね。

そうなんです。マクロファージにも血管新生を抑制する働きがあるのではないかというので、眼球のほかに牛の肺を採ってきて肺の管の中からマクロファージを採るという作業なんかもしていました。当時は一生懸命だったのですが、コンタミネーション(雑菌混入)との戦いで、今思うとまさに力仕事でしたね(笑)。この研究で、博士号を取ることができました。

研究室の後輩と

研究室の後輩と

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