この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」

第42回 細胞内のモーター分子の動きをとことん見つめ生命の謎に迫る 理化学研究所 生命システム研究センター 細胞極性統御研究チーム  岡田 康志 チームリーダー

Profile

岡田康志(おかだ・やすし)
1968年大阪府生まれ。93年東京大学医学部卒業。97年同大学院医学系研究科博士課程修了。医学博士。同年同大学医学部解剖学・細胞生物学教室助手。学部学生時代を含め20年余り同大学院医学系研究科の廣川信隆教授のもとでモーター分子キネシンの研究に取り組む。2011年理化学研究所生命システム研究センター(QBiC)細胞極性統御研究チーム・チームリーダー。大阪大学大学院生命機能研究科招聘教授を兼務。16年東京大学大学院理学系研究科理学部教授(物理学専攻)。

profile
中学・高校で30万ページもの読書をこなし、ファインマンやランダウらの物理学の本に親しんでいた岡田先生。大学に入ってからは、「細胞内の宅配便」ともいうべきモーター分子が、どのようなメカニズムで必要な物資を目的地に送り届けているのかを探究。それまでの定説を覆す発見も成し遂げた。とことん「見る」ことで、生命の謎に迫りたいという岡田先生に、これまでの研究プロセスをうかがった。

本を乱読していた中・高校時代

───小さいころはどんな子どもでしたか?

幼稚園のころから毎月発売される学研の図鑑を隅から隅まで読んでいるような子で、小学3、4年のころに抱いた将来の夢は、NASAに行って宇宙飛行士になって宇宙の研究をすることでした。

実験遊びみたいなことも好きで、アサガオなどを使った色水遊びをするんですが、酢を入れたら色が変わって、重曹を入れたらまた色が変わったと喜んでいたら、製薬会社に勤めていた父親からpH試験紙を渡されたので、それで家のまわりのものを次々と試してみた。おかげで幼稚園のころからpH7が中性で、それより小さい数値だと酸性、大きいとアルカリ性だというのを知っていました。ツバをペッとかけると弱アルカリだとか、漆喰や壁はアルカリが強いとか。

そうそう、あるときカマキリを捕まえてきて、カマキリは生きた餌しか食べないので毎日チョウやバッタを捕まえてきて餌をやっていたら、オスとメスだったので交尾をはじめた。交尾が終わるとメスがオスをバリバリと食べて、やがて卵からかえった赤ちゃんカマキリが部屋中にあふれ返ったのを覚えています。それが小学校の2、3年のころでしたね。

作ったり壊したりするのも好きで、時計ももちろん壊しているし、押し入れから真空管ラジオが出てきたのでそれを感電しながら壊して、また組み立てたり・・・。

───中学・高校と灘に進学して、灘高開校以来の天才とか、中・高校時代に30万ページの読書量を誇ったなどの「伝説」が残っていますが・・・。

30万ページというのは「伝説」というほど大変な話ではないし、とんでもない数字でもないですよ。毎日200ページ読めば300日で6万ページ、それを6年間続ければ36万ページですから、ごくふつうの数字はないですか?
たしかに本は片っ端から読みましたね。大阪の自宅から灘まで電車通学していましたので、片道1時間以上かかります。だから毎日往復で2時間以上。今だとスマホがありますが、当時は電車に乗っている間は本を読むぐらいしかすることがないんですよ。ですから、学校の図書館の本はすぐに大半を読んでしまって、灘高校の最寄り駅近くにある神戸市の図書館から借りて読んでいました。

───数多く読んだ本の中で、強い影響を受けた本などはありますか?

ファインマンとかランダウなどの物理の教科書ですね。ランダウは1962年にノーベル物理学賞を受賞した理論物理学者で、高校1年のときにクラスに来た教育実習生にいい本はないか聞いたら、彼とリフシッツの共著の教科書を教えてくれました。その中の『力学』を読んでみたのですが、とにかくブッ飛んだ本で、強烈でした。その解説をすると、どれだけ時間があっても足りない(笑)

───大阪ご出身で、高校時代に理論物理の本を読みふけっていながら、東大の理科III類を選んだのはなぜですか。

当時、物理学は超ひも理論や超伝導や今の観測的宇宙論などが続々と登場する前の谷間の時代でした。それならば、まだまだわからないことがたくさんある生物物理の分野もおもしろそうだなどと考えていたのです。
その点で東京大学は、入学時に学部を決める必要がなく、1-2年生の前期課程は駒場の教養学部に属して、2年の後期にそれまでの成績で学部・学科を決める「進学振り分け(進振り)」という制度があり、理科III類であれば、成績に関係なくどの学部にも行くことができるんです。選択肢の広さも魅力でした。

───駒場時代は、どんなふうに過ごしたのですか。

実はこの話をすると皆から呆れられるんですが、月曜から土曜日まで、全コマを埋めました。いくら単位を取っても学費はかわりませんから、トクじゃないですか。1年に100単位以上取ったんじゃないかなぁ。外国語も必修は第2外国語までですが、第2外国語でドイツ語を取って、そのほかにフランス語、ラテン語、ギリシャ語を取って、政治学も哲学も、とにかくおもしろそうな授業は全部受講しましたね。

───それで成績はいかがでしたか?

たしか平均が90数点じゃなかったかな。

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