この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」

京大でRNAスプライシングの研究に取り組む

───高校はどちらに?

府立四条畷高校です。高校では硬式テニス部に入り、2年のときは副部長を務めました。でも戦績は、中学のときのダブルス優勝がピークで、それ以降は下り坂・・・(笑)。夏休みに合宿をするんですが、高原などに出かけるのではなく、学校に泊まり込んで朝から晩までテニスをやるという合宿でした。そんな練習も2年で終わり。3年になると引退して受験勉強に打ち込むという進学校でした。

───勉強はどうだったのですか。

中ぐらいの成績でしたね。しかも、理系をめざしていたのに、物理が嫌いだったんです。バネの話で、2つのバネを引っ張ると力がどう分散されるか、あたりから頭がこんがらがってきて(笑)、苦手になってしまった。一方、生物はメンデルの法則などにおもしろさを感じるようになりました。だから受験は生物と化学で受けることにしたわけです。

───生物と化学の2科目では、受験できる大学が限られてしまいますよね。

この科目で受験できるのは、国立大学では京都大学しかありませんでした。生命科学をやりたかったので、理学部に行くか医学部にするか迷ったのですが、医者になる気はありませんでしたから理学部にねらいを定めました。ただ成績はそれほど芳しくなかったから、友達には「京大なんかとても受からない」と「十浪」なんてあだ名をつけられたほどです。
結局一浪して京大に合格しました。

───大学に入ってからは、研究者になるため、熱心に勉強したのですか。

それが大学時代はほとんど勉強しなかった。テニスをやりたくて、大学の同好会に入っていたんです。2年のときは部長を務め、他の女子大生を勧誘するのに忙しく・・(笑)。それでも4年生後期には研究室を決めて課題研究に取り組まなければならないし、大学院の試験もあるしで、必死になって勉強しました。

サークルの仲間と(左端)

───研究室選びはどのように?

幼稚園のころから科学マンガに夢中になり、赤血球クン、白血球クンに興味を持ったことはお話ししましたが、そうしたいろいろな細胞がなぜできるのか、細胞分化の謎に迫るような研究がしたいと考えていました。すると、志村令郎先生が「形質発現学」というその名もズバリの研究室を翌4月から新しく立ち上げるというのです。助教授で赴任される安田国雄先生は、目の水晶体の細胞分化が専門でしたから、「ここしかない」、と決めました。

───希望通り、細胞分化の研究がスタートしたわけですね。

いや、名前で惑わされてラボの中身まであまり研究しなかったのが悪いのですが・・(笑)、細胞分化ではなく、スプライシングがメインテーマのラボだったのです。

───スプライシングについて簡単に教えてください。

みなさんは、DNAの塩基情報がRNAにコピーされ、そのRNAの情報をもとにタンパク質が合成されることは習ったでしょう。真核生物の遺伝子には、タンパク質のアミノ酸配列を指示する部分(エキソン)と、関係のない部分(イントロン)があって、塩基情報が転写された未完成のRNAから、この不要なイントロンを取り除き、完成されたmRNAとする機構が「スプライシング」です。
当時、スプライシングの研究は世界的な流行で、科学雑誌「CELL」にも毎月論文が掲載されるほど分子生物学の中でも最先端を行く分野で、志村先生もその新しい研究手法を確立されたばかりのころでした。

───志村研ではどのような研究に取り組んだのですか。

研究室に入って指示されたのが、「細胞の核抽出液を取って、イントロンの長さが変わったらスプライシングの効率が変わるかどうかを調べよ」というテーマでした。面くらいましたねぇ。何しろ、スプライシングについての知識なんてほとんどない。イントロンが切り出されるときの構造が、プロレスの技みたいな「ラリアット」という名前だってことを聞いたことがあるぐらいでしたから。ひたすら核の抽出液を取る毎日でした。
いただいたテーマを自分なりにこなしたあとは、スプライシングで自分のオリジナルなアイデアの研究をするために試行錯誤を繰り返しました。博士課程に進んでからも、新しい実験アイデアを考えては試すのですが、なかなか思うようなデータがとれない。素人考えでシンプルにやってみた実験で光明が見えて、博士論文にまとめることができました。突拍子もない発想の実験に自由に取り組ませてもらい、先生方には感謝しています。

志村教授と。志村教授の左が井上邦夫教授、右端が坂本博教授(ともに現・神戸大学大学院RNA発現研究室)。澤先生は右から2人目

志村研でのテニス大会

───学位を取ったあと、ポスドクでそのままスプライシングの研究を続けたのですか。

もともとやりたかったのは細胞の分化で、大学院のときに安田先生からスプライシングの研究以外にも幅広いテーマの論文を読むようにと言われたこともあり、細胞分化や線虫の論文なども読んでいたのですが、この段階ではまだ細胞分化で自分のオリジナリティを打ち出せそうなテーマが見つからなかった。そこでスプライシングの研究を続けることにしました。ただこれまではヒーラ細胞というヒト由来の細胞の抽出液を使っていたのですが、酵母を使い、遺伝学とからめてアプローチしようと考え、Caltech(カリフォルニア工科大学)のジョン・エベルソンのラボに行ったのです。

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