この人に聞く「生命に関わる仕事っておもしろいですか?」

オリジナルを追い求め、常にポジティブ思考で!

───Wntシグナルによって、何らかのタンパク質が局在するという現象は、線虫だけに見られるものなのですか?

2013年に、マウスES細胞にWntを含んだビーズを付着させると、線虫と同じようにβカテニンが非対称に局在し、分裂後の娘細胞が非対称になるという報告がなされました。ただ、現象としては同じように見えますが、メカニズムまで同じかどうかはわかりません。
線虫の場合は、細胞の運命がすべて決まっていてフレキシビリティがありませんが、ヒトなどの細胞の場合は、まわりの細胞と相互作用をすることで違うものをつくっていく要素が強く、例えばある細胞がAという細胞とBという細胞に分化するとして、WntシグナルはどちらかというとAになりやすいというような、バイアスをつくる働きをしているのかもしれません。

───今後さらに研究を発展させるために必要なツールがありますか。

生きている細胞の中で、特定の遺伝子がどのように変化していくのか、遺伝子のクロマチン状態をライブで可視化する技術を開発したい。そうすることで、同じ遺伝子がどの細胞で働き、どの段階ではオフになるのか、細胞運命の制御のしくみの詳細が明らかになるはずです。

───先生の研究の応用可能性としては、どんな展望がありますか。

先ほど、がん抑制遺伝子APCも細胞膜の近くに偏在すると言いましたが、APCに異常がある線虫では、表皮系幹細胞は、分裂したとき幹細胞だけをつくり、異常増殖することがわかってきました。その様子はちょうどAPCの異常によってがんが引き起こされる様子にそっくりです。Wntシグナルの研究は、再生医療やがん研究につながっていくと考えています。もっとも私はあくまで基礎研究者で、非対称分裂の謎をとことん突き詰めていくのが本分ですが。

───研究ポリシーについて、また研究者をめざす若い人へのアドバイスをお聞かせください。

研究は順風満帆なことばかりではありません。でも、どんなときでもポジティブシンキングであることが大切だと思います。なんとかなるさと鷹揚にかまえて、決して後ろ向きにならないことですね。
若いみなさんには、知識をただ覚えるだけでなく、その背後にあるストーリーを見てほしい。たとえば、あるすごい発見があったとして、重要なのはなぜその発見ができたのか、その経緯を知ることです。また、最近は同調志向がことのほか強いように思いますが、ぜひ自分らしさ、オリジナリティを大切にしてください。ほかの人と同じ発想ではなく、独自の視点にこそ価値があるのですから。

国立遺伝学研究所 多細胞構築研究室のラボメンバーと

(2016年9月9日取材)

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