公益財団法人テルモ生命科学振興財団

財団サイトへもどる

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

サイト内検索

目の前のことを一生懸命に。「続ける」ことが大切

———ところで、2人のお子さんは大きくなられたでしょうね。

今年、高校3年になり、今ちょうど受験準備の真っ最中です。でも、2人ともなぜか理系ではなく、文系志望なんです。こればかりは本人次第ですからね。

———とくにお子さんが小さかったころは、研究との両立でたいへんだったことと思います。

腫瘍血管内皮細胞をとる実験はすごく長くかかるんです。なので、保育園に迎えにいったあと、よくラボにも連れてきて残業しました。もう一人ポスドクの同僚で子育て中の女性がいて、「ちょっと培養してくる間見ていて」などど、交代で子守していました。ですから、ボスが「お前の子どもたちは毎日のようにラボにきていて、どんなポスドクよりも熱心だから、お前たちがいなくなったらこの子たちを雇おう」とジョークを言ってくれたほど。こわもてのボスも子ども対してはやさしかった。
帰国後も、夕食は家で食べて、その後子どもがダイニングテーブルで宿題している間に私は論文を書いたりと、台所が仕事場でした。
それもこれも、恩師の理解と温かいサポートがあったからと感謝しています。

実験で遅くなると子どもたちをラボに連れていったことも

留学時代、育児を通して親しくなった友人宅で

———高校生へのメッセージをお願いします。

今は早くから将来を考えて学部を選ぶようにと指導されますよね。早くから目標を持って、頑張っている人はもちろん大歓迎で、エールを送りたい。でも中には「自分は将来、何になれるんだろうか」とか「大して夢もないし、やりたいこともない。でも勉強しないといけないからしてる」という人もいるに違いないし、実際にはそちらのほうが多いかもしれません。それでいいと思います。むしろ、17、8歳ですでに「やりたいことが決まっている」というほうが少数派でしょう。
でも、やりたいと思って就いた仕事ではなくても、日々、目の前のことを一生懸命やっていると、それが面白くなるもの。面白くなってくるとまた続けようというエネルギーが湧くし、続けていくと必ずまわりには仲間ができます。ときには部下ができて、そうすると責任感を持たざるをえなくなるので、簡単には投げ出せなくなる。
実は私の場合がそうでした。高校のころ、世界で初めての発見をしたいだなんて夢にも思っていませんでした。普通に生活して、普通に幸せになる、何となくそれぐらいしか思っていなかった。そして、歯科医から偶然研究者の道に進んで、今は歯や骨ではなく、血管の研究をしています。そんなふうにゆっくりやりたいことを見つけるというルートもありますよ、と言ってあげたい。

———とくに女子高校生に向けてアドバイスがありましたら…。

研究者に限らず、たとえどんな仕事に就こうとも、これからは女性の力がなければ日本は大変だと思うので、女性が大いに持てる力を発揮できるよう、制度もさらに整備されていくに違いありません。とはいえ、女性の場合、長い人生の中ではライフサイクルでペースが落ちるときがくることもあるでしょう。
でも、たとえそこでペースが落ちても、「辞めた」と投げ出してしまえばゼロになってしまうので、ぜひとも続けてほしいと思います。私が知り合いがいない環境の中で1歳の双子を連れて留学したときも、先輩の女性研究者から「つらくても辞めないで。ペースが落ちてもいいから。辞めたら終わり。頑張っていればきっといい時代がくるわよ」と後押しされて研究を続けることができました。一生懸命にやっていたら、見ていてくれる人はいるもの。とにかくあきらめずに続けることが何より大切です。
男性の人たちには、パートナーの背中を押してあげて、と声を大にして言いたいですね。

恒例の自宅でのラボメンバーとのバーベキュー(2017)。子育てと両立するために、外での飲み会が少なかった分、自宅で家族ぐるみでコミュニケーションを図ろうと行っていたバーベキュー大会が、今では樋田研究室の年に一度の恒例行事に

(2017年8月29日取材)