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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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10年先20年先を見通さなくても、目先の関心で決めたっていい

———今後さらに探究していきたいことは。

外で細胞を分化させて体内に移植するのではなく、体内の治療・再生したい部位に特定の遺伝子を発現させるなどして目的の細胞へと分化させるダイレクトリプログラミングについて、いくつかいい研究がまとまってきたので、臨床応用にはずみがつくような成果を出したいですね。
また、外からの刺激でエピジェネティクスが変化するのですが、ではどんなメカニズムで変わるのかがまだブラックボックスなんです。それを明らかにしていきたい。
そういう意味では、遺伝子一つ、細胞1個だけを見ていてもダメで、脳の発生から続く細胞運命を、脳全体で、AIなどを使って解明していくことも必要でしょう。幸い、バイオインフォマティクスの得意なメンバーがラボに加わったので、今後の展開を期待しています。

———研究のおもしろさは、どんなところにありますか。

やはり世界で初めてその現象を発見したときは、もう、なんともいえませんね。2つの因子を加えたときに、顕微鏡を覗きこんでアストロサイトが光って見えたときは、眩しくてクラクラしました。
もっとも、最近は自分で研究をすることはほとんどないので、このワクワク感に出会えていないんですよ。ポスドクとか助教がいいデータを出すじゃないですか。はじめのうちは素直に喜べなくて、内心、クソッという気持ちがして葛藤がありましたね。もちろん今では、プレーヤーと監督の違いが整理できていますが。

———いかに、メンバーの研究を導いていくか、ご自身のアイデアも盛り込んでいくか、でしょうか?

そうですね。とにかくいろんな論文を読んで、引き出しに入れておく。あるとき、いま進めている実験とあの論文がリンクする、などとパッとひらめくんですね。そしていくつかの仮説を立ててぴったりハマったときは快感です。

———最後に、若い人たちにメッセージをお願いします。

最近、キャリア教育などの要請が強くて、10年先20年先の自分を考えて大学や学部を選びなさいなんて言われることも多いのですが、先々まで見通さなくても、目先の関心で決めてもいいんじゃないかと思います。先を考えすぎると動けなくなってしまうことだってある。とりあえず、今できることを一生懸命やればなんとかなるものです。
たとえめざす大学に入れなくたって、そこで終わりじゃない。進んだところで実力をつけておけば、大学院やポスドクで、ねらったところに動けることも多い。思ったところに入学できなかったとくさるのではなく、相性のいい先生や、あなたを評価してくれる場所で精いっぱい取り組むことが大切だと思います。

ラボメンバーとの講座旅行。佐賀・祐徳稲荷神社にて

(2018年3月20日更新)