公益財団法人テルモ生命科学振興財団

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

人と同じ研究ではおもしろくない

———大学の授業の思い出を教えてください。

医学に興味があったという話をしましたが、筑波大学には、生物学と医学を融合させた「医生物」という境界領域のコースがあったんです。医学部の講義も受けられるので顔を出していたのですが、それがまるでおもしろくなかった。「これはなぜですか?」と聞いても「それは考えなくていい。教えられたことを覚えればいい」。医師の国家試験を受けるための受験勉強のようで、なにか違うなと思って、医学系の大学院でがんの研究をするという選択肢はすっぱり捨てました。

———先生の興味をひいたのは、どんな授業でしたか。

渡辺良雄先生の細胞生物学の授業です。教科書なんか全然使わず、新しい論文でわかってきたことを教えてくれました。こういう現象があって、それを調べるには何が必要で、どんな実験をしたらいいか。実験の結果何がわかったか。それがわかったら次は何を調べるのか…と、ストーリーが描ける授業でした。
だから私、先生が授業で取り上げた原著を全部読みましたよ。おかげで、英語も得意になりましたし。それと、ショウジョウバエを使って発生遺伝学を研究されていた岡田益吉先生の授業も印象に残っていますね。

———研究室選びはどのように?

細胞生物学にも興味がありましたが、ラボまわりをしているとき、細胞性粘菌の発生を観察する実習がとてもおもしろくて、柳沢嘉一郎先生のラボを選びました。
細胞性粘菌というのは土壌中のアメーバ様の真核微生物です。細胞を寒天培地にまくと最初ばらばらの細胞が集まってきて多細胞体のようなものをつくって動き回り、あるとき子実体である胞子細胞と柄細胞に分化するんですが、それがちょうど24時間のサイクル。すごくシンプルな発生過程で、しかもダイナミック! 何かおもしろそうな研究ができそうだと考えました。

———ラボではどんな研究に取り組んだのですか?

細胞性粘菌の子実体形成はとても興味深かったのですが、同じようなことを研究している人が結構いっぱいいるんですね。人と同じことをやるのはつまらないと思って取り組んだのが、性の異なる粘菌同士の融合です。粘菌をそのまま単独で発生させると子実体しかつくらないけれど、タイプの違うもの同士を混ぜるとシスト(被嚢・嚢子・包嚢のこと)のようなものをつくって、休眠状態に入ります。どのような条件でシストができるのかを、条件をいろいろ変えて実験しました。それまでだれもやったことのない実験で、シスト形成のメカニズムを解明できたときは自分でもうれしかったし、実験というのはこうやって進めていくんだなという発見もありました。学生がやることですからシンプルな実験でしたが、それでも大学院時代に3報の論文をまとめることができました。

筑波大大学院のころはバイクでよく筑波山を走っていた

———博士号を取って留学したのが、ニューヨークのメモリアルスローンケタリングがんセンターですね。

かつて柳沢先生も留学されたところで、マウスを使った研究がここからスタートします。

———どんな研究ですか?

ひとことで言うと、 アロタイプの異なるマウスを使ったLy5(CD45)遺伝子のクローニングです。当時、遺伝子クローニングはほとんどなされていなかった時代で、今のように実験キットが揃っているわけではありませんから、クックブックと呼ばれていた「Molecular cloning:a laboratory manual」という分子生物学の実験のバイブルのようなテキストと首っ引きで実験を繰り返しました。私はラッキーで、比較的早くこのアロタイプで異なる遺伝子パターンを示すcDNAのクローニングに成功しました。本当に断片だったのですが、「米国科学アカデミー紀要(PNAS )」に論文が載りました。しかし、そのあとの遺伝子の解析は本当に苦労しました。かなり大きな遺伝子だったので。今だったらワンクリックで得られる情報を2年ぐらいかけて延々と解いていく…。でもこれで分子生物学の基礎を徹底的にマスターできたと思います。

———研究テーマはボスから与えられたのですか?

すごく偉いボスで月に1回会うか会わないくらい。ですからその下の助教授に相談しましたが、テーマはほとんど自分で決めていましたね。考えてみると、学生のときから、ボスは何も言わないタイプの人が多かった。もちろん、これをやるようにというテーマを与えられることはありましたが、そのためのストラテジーは自分で考えなくてはいけない。ボスから言われたことだけしかできないのでは研究はおもしろくなりません。

スローンでお世話になった准教授Dr. Shen (右端)のお宅で、ラボメンバーとホームパーティ。1985年ごろ (手前中央・左)

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