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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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医学部の志望理由は、選択肢が一番広いから

———大学は医学部ですね。選んだ理由は?

医学部を受験したのは、医者になりたいというより、選択肢が広いというのが理由です。それと、生命のシステムってものすごく複雑でパッと見ても全くわからないんですよ。物理や工学の世界は見た目はシンプルなことが多いです。たとえば、カーボンナノチューブだったら、最初わからなくても1回理解すれば何となく感覚的にはわかる。でも、生きものは見れば見るほど複雑でなかなか理解できない。理解できないのは当然で、ルールがあるようでないのが生命システムです。ルールがないものを観察するって、どこか哲学的なところもあっておもしろいと思ったのです。
医学のなかでも、循環器内科を専攻に選んだのも選択肢が広いからですね。基礎研究をやろうとしたときに、研究に使う機械をつくってもいいし、生物学的なこととか、何をやってもいい。それで医学部を出て最終的に進んだのが循環器内科でした。動的なモノに興味があったのでしょう。

———最初は内科の臨床医としてスタートしたわけですね。その後、進路の選択で転機のようなものはありましたか?

ちょうど内科医だった30歳ぐらいのときに大きな病気をしたんですよ。それまでは健康な若いお医者さんだったけど、病気になって長期間の入院を余儀なくされました。昔の概念でいえば入院してキャリアパスが中断すれば、もう人生は失敗ですね。実際に、いくつかの後遺障害でできないこともたくさんできました。でも、病気になったのだからしょうかないわけで、その時期を境にちょっと考え方が変わりました。「できない」とか「失敗」とかいうことを気にしないようになりました。それに、医者だった自分が治療を受ける側になったことで、患者の視点からものを見るようになったとはいえますね。よく考えれば、「成功」とか「正解」なんてどこにも存在しないので、最初からもっと自由にやればよかったんですよね。

———研究者になったのは?

臨床には臨床の世界のおもしろさ・難しさがあると思うんです。臨床医の仕事って患者さんのペースに合わせないといけないじゃないですか。そういったところで、自分の能力の限界を感じました。点滴の薬を変えたとすると、もう5分後には「どうですか?」と患者さんのところに聞きに行きたくなるんです。でも、たった5分後では薬の効果なんてわからないわけです。もっと長期の視点に立たないと診療なんてできないんですよ。
基礎実験・研究では、わりと早くに結果が出ることが多いです。早く結果が出るというのがぼくには向いているようですね。他にも、いくつかの限界を感じながら、臨床は自分には向いてないなと思ってスパッとやめました。

———臨床から研究に移って、どんな研究を進めたのですか。

東大病院では心臓のカテーテルの診断や治療に入局当時は携わっていました。最初に始めた研究は、心臓はなぜ動くかというテーマです。自分なりに小さな測定器とか顕微鏡を使って生理学の実験システムを組んでいきました。
前任者がいないスペースで新しい実験系を立ち上げたので、そばで教えてくれる人がほとんどいない状況でした。実際には当時のボスが自由に任せてくださったというのが本当のところですが。測定器や顕微鏡などのパーツはいろいろ残されていて、自分なりに改変しながら、ナノレベルでの生理計測をやっていました。それが2004年のころですね。
その後、2回ぐらい研究の領域をシフトさせているので、今のイメージング研究自体はここ数年の仕事です。最初は心臓の研究、その後脂肪組織を研究するようになり、次に血管イメージングの研究。今は自分でも機器を開発する“機械屋さん”です。

———なぜ“機械屋さん”に?

最初に心臓を研究していたころは、すべて体の外からの計測でした。それより、実際の生体の中を計測したり観察するin vivoのほうが興味深いじゃないですか。それで、ネズミをとりあえず顕微鏡の上に麻酔をして載せてみたことがあったんです。どうやって載せて画像にしたらいいのかもよくわからないなかで、とにかく工夫してやってみたら、体の中がチラリと写ったんです。「これは何とかやればできるんじゃないか。もっとクリアに見えるのではないか。もっと、ちゃんと体の中を撮影できるようにしてみよう」、と思ったのが2007年ぐらいです。
その後、共焦点ユニットを使いながら、CCDカメラで体の中の血液の流れとかが撮れるようになりました。そうすると機械をもうちょっとよくしたらいいのでは、と思うようになって、自分の技術をどんどん使って顕微鏡を改造するようになっていきました。

動脈の収縮

生体内での微小血管の血流イメージング(上:動脈、下:静脈)