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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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技術の進歩に支えられて研究はますます楽しくなっている

———これからさらに探究していきたいことは?

ぼくが今まで研究してきたのは、精子幹細胞がどのようにふるまっているかなんですが、自分の中ではまだ生殖細胞そのものに取り組んでいないという気持ちが強いんです。生殖細胞は次の子供を作る。DNAを伝えているわけです。でもDNAを複製するときにはどうしてもエラーができてしまう。エラーはできるだけ伝えたくない。でもエラーを伝えないと、生き物って進化しないんですよね。突然変異が起こる・起こらないも含めて、どうやって子供にDNAを伝えていくのかを探究したい。その手掛かりとして、突然変異が幹細胞に起こると、幹細胞の増え方や精子の作り方がどう変化するかを調べようと思っています。

———最後に若い人へのメッセージを。

研究は楽しい!ということかな。ぼくが研究を楽しいと思うのは、うまくいったときだけではなくて、「何をやっても自由だ」ということです。ぼくの場合は生殖細胞だけれども、どんなテーマで、どんな方法でアプローチしてもだれも何とも言わないよ、だから自由にいろんなことができて、生き物に問いかけることができるよ、と言いたいですね。
いい研究って、生き物に問いかける研究だと思っています。研究、実際には実験ですけど、実験によってどういう答えが返ってくるかを通して、生き物が何を考えているかを読み解く。生き物と会話ができるのが理想です。「これはこうなっているはずだから、お前、オレの言うことを聞け」みたいじゃなく、「どうなってるの?」と聞くと「こうなってるんだよ」と生き物が答えてくれるような実験がやれると、おもしろいですよね。

———研究ツールの進歩で、これからの生物学はどうなっていくでしょう?

今、生物学がすごくおもしろくなっている時代です。特に技術の進歩はめざましくて、たとえば単一細胞の遺伝子発現解析などは最近ものすごく進んでいます。
今までだと、筋肉にはどういう遺伝子が発現しているかを調べようとしたら、筋肉を取ってきてすり潰して、RNAを取って調べるというようなことをしていたわけですが、今はずっとすごいことができるようになってきて、筋肉の細胞1個1個を別々に調べることができます。すると何がわかるかというと、筋肉全体で見ればAさんの筋肉もBさんの筋肉もきっとほとんど同じ。ところが、一つ一つの細胞ごとに調べると、AさんとBさんの筋肉全体の差よりも、AさんならAさんの中にある筋肉の細胞ごとのバラツキの方が圧倒的に大きい。同じ筋肉の細胞なんだけど1個1個がバラバラになっている。ところがそれが何万個も何十万個も集まるとものすごく強くて安定したものになる、ということがわかってきているんですね。それは、1個1個の細胞ごとに2万とか3万とかの遺伝子すべての発現を調べる技術がどんどん進んでいるからこそわかることです。

———それって先ほどのオリンピックの行進の話と似てますね。

まったくその通りです。1個1個はランダムに揺らぎながら、全体としては安定しているものが生き物の重要な性質だというのがすごい勢いでわかってきています。細胞のレベルでもそうだし、遺伝子発現でもそうです。それは、ハードの技術とソフトの解析技術がめざましい勢いで進んでいるからにほかなりません。これは世の中でよく使われているビッグデータの解析とも共通していることで、おかげで生き物の見方がガラッと変わってきています。今までのように「何とか学」という狭い領域にとらわれる必要はなく、どんどん垣根が崩れていっている時代、楽しい時代なんだからぜひともサイエンスの世界に飛び込んできてほしいと思います。

「それぞれの学問分野の垣根が崩れて、サイエンスがどんどんおもしろくなっている」と語る吉田先生

(2018年12月19日更新)