公益財団法人テルモ生命科学振興財団

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

見る前に跳べ

———これまでを振り返って、岡田先生や大隅先生、そのほかの先生との出会いは偶然とラッキーだったとおっしゃいますが、吉森先生ご自身が常に好奇心を持って、新しいことにチャレンジし続けたからこそ、さまざまな出会いがあり、発見につながったのではないでしょうか。

ぼくは、自分自身はそれほど才能があるとは思っていませんが、人の縁にずっと助けられてきた気がします。研究テーマを選べたのも人の縁、人のネットワークによるところが大きいですし、ドイツで親しくなった当時ポスドクだった外国の研究者とは今も交流があり、そのネットワークが研究に非常に役立っています。昔の生物学は一人でコツコツやっても成果が出たでしょうが、現代の生物学はそれではダメで、人的ネットワークがとても大切です。それと、そう、新しいことに飛び込む気持ちを持ち続けてきたことも良かったと思っています。

大隅先生とともに、オートファジー柄のネクタイに注目!このネクタイは、大隅先生のノーベル賞受賞を記念して同門一堂が先生にプレゼントしたもの。私の次男がデザイン

———これまで、とくに大切にしてきたことは何でしょう?

40年研究をしてきて、飽きずによく続いたなと思います。でもね、ぼくは研究が自分のすべてではないと思っています。やりたいことはいっぱいあって、絵も描きたいし、50歳を過ぎてからは走るのが趣味になって、フルマラソンは20回以上走っていますし、最近は山を走るトレイルランニングにはまっていて、この前は六甲山で50kmを完走しました。 そういうような楽しみがいくつもあることが、すごく大事だと思うんです。同じことしかしてないと、かえって煮詰まってしまうこともある。それは研究でも同じですね。まわりを見ていても、優れた研究者はたくさん趣味をお持ちです。違う世界を持つことも大切でしょう。

———若い人にも、もっと違う世界を知りなさい、と。

学校でのいじめの問題など、それで人生をはかなんで自殺したりするなんて、とてももったいないことだと思います。絶望してしまうのは、そこにしか自分の居場所がないからなんです。違うところがあればそっちに一時避難できる。学校をやめたっていいじゃないですか。ぼくはそう思います。
私が大変敬愛している永田和宏先生(京大名誉教授。現在京都産業大学タンパク質動態研究所所長)は、細胞生物学者としても歌人としても高名で2つのまったく異なる世界をお持ちですが、やはり同様のことをおっしゃっています。

———自分がやりたいこと、好きなことを見つけることも大事ですね。

好きなことをすべきだけど、最近はちょっと真面目過ぎる人が多いかなとも思います。ぼくの研究室にも大学院生がたくさん来てくれていますが、今の子って、真面目でいい子たちばかり。もうちょっと無軌道でもいいかなと。
ぼくの好きな言葉がイギリスの詩人、W.H.オーデンの「見る前に跳べ」という言葉です。今の若い人たちを見ていると、石橋を叩いて叩いて、失敗しないようにということばかり考えて進んでいるようなところがあります。危険なことももちろんあるんですが、下ばかり見ていたら足がすくんで動けなくなるし遠くの景色が見えませんから、ときには前を見て、思い切って跳ぶことが必要だと思うんですね。
いま研究者になる人は減ってきています。たしかに、研究者になっても安定した生活が送れる保証はないし、生きにくいかもしれない。だけどぼくはそれでもやりがいがあると思うんです。学問上の発見って、世界のだれもまだ知らないことを見つけるんだから、これは本当におもしろいこと、すばらしいことです。
実験科学は推理小説みたいなもので、いろいろな伏線があって、試していくうちに犯人がわかっていく。推理小説だったら殺人犯が1人か2人出てくるぐらいだけど、自然の中で見つかることって、とてつもなく壮大で神秘的です。やりがいもそれだけ大きいんです。そんな研究の世界に勇気を出して飛び込んできてほしいと思います。


吉森教授の研究室には世界の研究者たちからプレゼントされたアヒルが所狭しと並んでいる。アヒルをアイコンにし、学会のプレゼンテーションでも必ずスライドにアヒルを入れているうちに「アヒルの人」として有名になって、コミュニケーションツールにもなっているのだという。
写真左上は、2000年にEMBOジャーナルに掲載したLC3に関する論文を手にしたアヒル。同誌の編集部からプレゼントされたもの。右上は2018年にフランクフルト大学で講演した際、贈呈式でプレゼントされたゲーテのアヒル。
本文中にも登場する細胞生物学者で歌人でもある永田和宏先生の歌集『某月某日』にも「ヘンなヒトが私は好きでこの人の教授室にはアヒルが五〇〇」と、吉森先生のアヒルを詠んだ歌が収録されている。

(2019年5月29日更新)

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