公益財団法人テルモ生命科学振興財団

中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

「自分にはムリ」とあきらめず、チャレンジを!

———バイヤー研究室での研究の成果を「ゼブラフィッシュの視覚運動刺激の情報処理をつかさどる神経機構」という論文にまとめてNeuron誌に発表したのが2014年。翌年はプロジェクトリーダーとなりましたね。

論文が出たあと、出産して、育休が明けてからプロジェクトリーダーという半独立のポジションにつきました。バイヤー先生が、子育てと両立しやすいように、いきなり完全な独立というよりステップアップするための中間的なキャリアパスとして推薦してくれたものです。2人の大学院生を指導しながら研究を続けました。

———その後は日本に戻って、2017年12月から国立遺伝学研究所(遺伝研)の准教授に。ドイツでそのまま研究を続けようとはお考えになりませんでしたか?

プロジェクトリーダーの任期は5年でしたが、自分で予算を取ってくるわけではないため半人前という感じがあって、やはり自分で研究室を主宰したいと思ったこと。それと、子供が生まれる前は海外でも日本でもやりたい研究ができるならどこでもいいと考えていましたが、子供のことを考えたら、親のサポートも受けやすい日本がいいということで、日本で職を探すことにしました。
遺伝研では新分野創造センターに属していて、ここで新しい研究室の立ち上げを支援していただきました。また、ドイツでプロジェクトリーダーをしていたおかげで、海外から日本に帰国して研究室をスタートさせる研究者をサポートする「国際共同研究加速基金(帰国発展研究)」という科研費事業の一つに採択され、カルシウムイメージングに欠かせない二光子顕微鏡を設置することができたのもラッキーでしたね。

———研究用に作製した遺伝子改変したゼブラフィッシュの引越しは大変だったのでは?

はい。ゼブラフィッシュは卵の状態で専門の業者さんに依頼して輸送するのですが、寒い冬だったので、途中で卵が死んでしまうことも。ゼブラフィッシュは熱帯魚なので寒さに弱いんですね。でも3回の輸送を経て、無事に移動できました。遺伝研のある三島は、水がきれいなことで有名で、魚たちはとても元気ですよ。

ゼブラフィッシュの水槽の中の卵を見せてくれる久保先生

———お子さんはまだ小さいのでしょう?

今年10月で5歳になりますが、三島市の保育環境が充実しているのでありがたいですね。学会や泊まりがけの出張などのときは、横浜にいる両親に頼めることも助かっています。

———今後の研究のビジョンを教えてください。

視覚情報を識別する視蓋前野のニューロンにはさまざまな種類があることはわかったのですが、それぞれの種類でどのような違いがあるかはまだはっきりとはわかっていません。たとえば、1つのタイプのニューロンの機能を抑制したとき、ほかの細胞がどういう影響を受けるのか、それによって行動がどう変わるのかは明らかになっていないので、それを解明したい。それと、神経は回路なので接続のパターンがあります。視蓋前野のさまざまなタイプのニューロンがどういう神経回路をつくって情報が伝わるのかを証明したいと考えています。

———最後に、研究者になりたいと思っている中高生にアドバイスをお願いします。

私の個人的な感覚ですが、今の中高生って、「今のうちにこれを勉強しなくてはいけない」とか、「大学ではこれを習得しなければいけない」とか、2、3年後ぐらいの目標に向かって「何とかしなければいけない」と思っている人が多いような気がします。
でも実際には、2、3年経つと目標自体がまるで違ったものになることがあるものです。私も大学に入って、当初やりたいと思っていたこととはまったく違う道に進むことになりました。だから、打算的に「今これをやらなくてはいけないからやる」というのではなくて、自分が興味を持っていることを大事にしてほしいなと思います。 中には、興味を持っていたとしても、ただそう思うだけで実際にやるのはムリ、と思っている人もいるかもしれません。でも、「自分にはムリ」と思ってやらないでいるのではなく、「できるかどうかわからないけれど、とにかくやってみよう」とチャレンジしてほしい。やらないと何も生まれないけれど、やれば何かが生まれるものです。少しでも興味があるなら、勇気を出してその興味を持っているものに取り組んでほしいですね。

さまざまなトランスジェニック系統のゼブラフィッシュ飼育室にて

(2019年8月20日更新)

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