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中高生と“いのちの不思議”を考える─生命科学DOKIDOKI研究室

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第60回 生きたゼブラフィッシュを用い視覚情報を行動へとつなげる神経回路を探る 国立遺伝学研究所 新分野創造センター システム神経科学研究室 准教授 久保 郁

ゲームセンターなどでドライビングシミュレータを操っていると、自分は動いていないのに、車に乗って疾走している感覚を覚える。目の前の映像が流れ去っていくからだ。また映し出される道路のカーブにあわせてハンドルを動かす。こうした視覚からの情報で、私たちは自分が動いている方向を知覚したり、どう運動すべきかをコントロールしている。では視覚情報は脳でどのように処理されて行動が生み出されているのだろう? そんな謎を、透明なゼブラフィッシュの脳の神経活動を可視化して探っているのが久保郁先生だ。

profile

久保 郁(くぼ・ふみ)
神奈川県横浜市出身。2002年京都大学理学部卒業。07年同大学生命科学研究科博士課程修了。生命科学博士。07年理化学研究所基礎科学特別研究員。10年米カリフォルニア大学サンフランシスコ校でポスドク。12年独マックスプランク研究所ポスドク。15年同研究所プロジェクトリーダー。18年より現職。16年日本神経科学学会奨励賞。19年文部科学大臣表彰若手科学者賞。

高2までクラシック・バレエに打ち込む

———お生まれはどちらですか?

神奈川県の横浜市です。横浜というと都会のイメージがありますが、横須賀市寄りの金沢区で、海に近いのどかなところで生まれ育ちました。

5歳の頃。横浜近くの公園にて。

———子供時代に熱中したことはありますか。

3歳ぐらいからクラシック・バレエを始め、小学生のころはかなり熱中していました。音楽に合わせて体を動かすのが楽しかったし、トウシューズへの憧れもありました。小さいうちはまだ基礎の筋肉ができていないので履けないのですが、3年間ぐらい練習を繰り返して、トウシューズが履けるようになってからはいっそう楽しくなって、その後も中学・高校とバレエを続けました。

———中学に入ると部活も忙しいのでは?

中学校では最初、バスケットボール部に入りました。でもバレエとバスケットボールでは使う筋肉が全然違うんですよね。どちらもやりたかったけれど両立は難しいということがわかってきて、成績が下がってきたこともあって、バスケはやめてバレエをとりました。バレエは、高校2年の大学受験の勉強が始まる前まで続けていました。

バレエに熱中した子供時代(写真は高校2年生のときの発表会)。

———そのころ、将来何になりたいと思っていましたか。

中学生の社会科見学で地方裁判所に行ったんですね。真実を明らかにする弁護士や裁判官がかっこいいなと思って、一時期法律の世界もいいなと思ったんですが、文系の科目があまりできなくて、ちょっと無理かなと途中であきらめてしまいました。

———科学に対する興味はいつごろから?

高校に入ってからですね。生物の授業ですごくおもしろい先生にめぐり合ったのがきっかけです。核が中心にあって膜に覆われている細胞の構造を初めて知って、「こんな世界があるのか!」と興味を持ちました。女性の先生ということで親近感が湧いたことも影響しているかもしれません。

———教科で好きだったのも生物ですか?

英語も好きだったけれど、やはり生物ですね。ちょうど分子生物学が高校でも教えられるようになってきて、DNAとかRNAの話が興味深かったし、マクロな生態学にも興味を持ちました。特に好きだったのは霊長類のサルやチンパンジーです。動物の中で人間とチンパンジーって遺伝子的にはすごく近く、ゲノムも2%ぐらいしか違わない。それなのになぜこんなに違うのか、とても不思議でしたね。それで京都大学に行きたいと。

———京都大学には霊長類研究所がありますね。

はい。霊長類研究所に松沢哲郎先生というチンパンジー研究の第一人者がいらして、たしかNHKの番組だったと思いますが、天才チンパンジーといわれたアイが問題を解いたり、人間とコミュニケーションをとったりしている様子を見て感激しました。チンパンジーを理解することは人間を理解することにもつながるという松沢先生の話に感化されて、京大の理学部に決めたんです。